ひーくんの体に着せる衣装
「次のイベントで着るのはこれ? ぬいくんのお気に入りのやつだね」
「別に、そういうわけじゃないけど……」
「そう? でも、もう何回も着てるよね、これ」
「うん……それは、そう」
「……♪」
その時、ボクの背中を擦っていた指が立った。
撫でる手つきからタッピングに変わって、ひーくんの指はボクの背中の上で楽しげなステップを踏み始める。
「んふふ~♪」
「どうかした?」
「嬉しいなーって思って」
「何がそんなに嬉しいの?」
指先だけでなく、その声色も嬉しそうに跳ねている。
ひーくんは余程ご機嫌なようだ。
「だって~、このコスってえっちでしょ?」
「ぶふっ!」
急にそんなことを言われたものだから、ボクは吹き出してしまった。
「あっ、やっぱぬいくんもそう思ってたんだ~」
「ちっ、違うよ! 図星だったんじゃなくて、突拍子もないから驚いたんだよ!」
「またまた~。恥ずかしがって隠さなくてもいいんだよ、ぬいくん。僕はぬいくんのことを笑ったりしないから。どんなぬいくんのことでも受け止めるし、ぬいくんのことならなんだって知りたいんだから」
「うぐっ……」
逆にひーくんは少しは恥じらいを持った方がいいと思う。
あんまりにも直球に好意を投げられても、アルコールの力無しでは正面から受け止めるのは困難だ。
「でっ、でも……このコスはそんなに露出度高くないし……体型は、ちょっと出やすいかもだけど……」
「そうだよね~、露出度は低いよね~……表向きは」
「うぅっ……」
当たり前の話だけれども。
ひーくんはこのコスを何度も着ているのだから、その秘密に気づいていないはずもなかった。
「ここの布の裏に入ってるスリット、ぬいくんのアレンジだよね」
「はい……」
「普通に考えたらこのアレンジっていらないと思うんだ。スリットを入れても布が隠しちゃうんだから素肌は見えない。それなのにわざわざスリットのアレンジを入れるのなんて無意味じゃない? 動き回ったりするわけでもないんだし」
「仰る通りです……」
「でも、このアレンジが無意味にならない場合もあるんだよね。外から眺めたり撮影するだけだと、スリットは布の裏に隠れてる。一方で僕に近づけばスリットは見えるし、スリットの隙間から僕に触れることもできる……違う?」
「違いません……」
ひーくんの胸に顔を埋めることで何とか赤面は隠せているのだろうけれど、結局は耳の火照りで全てバレてしまっているだろう。
「んふふ~、ぬいくんって独占欲強いよね~♡ 皆に見てもらうためのコスプレなのに、自分だけが楽しめるアレンジしちゃうんだもん」
「ごめんなさい……」
「謝らなくていいよ。むしろ、僕嬉しいし」
「え……? ……そのスリット、実は通気性が良くて快適とか?」
「ううん、そういうのは全然」
「あ、そ、そう……だよね……」
「そういうんじゃなくて~……僕、こういう体で良かったな~って思うんだよね」
「? どういう体のこと……?」
それは長身のことだろうか。
それとも細すぎず太すぎない、スラっとした体型のことだろうか。
体と言っているから、顔が良いこととは関係なさそうだけれども。
「ぬいくんにとってえっちな体」
「ぶふっ!?」
またもや、ボクは吹き出してしまった。
「それで、ぬいくんがえっち大好きで良かったとも思うんだ。ぬいくんがえっち大好きで、僕がえっちな体で……そのおかげで、ボクはぬいくん好みのえっちなコスプレができる……これって運命的だよね~」
「そ、そうだね……そうかな……?」
正直、反論しようと思えばできたような気がするけれど。
色々と恥ずかしすぎて、ボクにはそれ以上何も言えなかった。
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