家事を手伝うということ
「だから、僕はこのコスでもいいよ。僕は笑顔のぬいくんの隣でコスプレしてるのが一番好きだから。ぬいくんが一番僕に着せたいやつを選んで」
「一番……」
「? もしかして、本当は他のがいいの?」
「そうなんだけど……でも……」
本音を言うと、今が旬のキャラクターのコスプレをひーくんにしてもらいたい。
少し前に流行ったアニメのキャラの着回しではなく、絶賛推し中のキャラのコスプレをして欲しい。
しかし――
「さすがに、今からコス作る時間は無いから……だから、これでいいかなって思ってるんだけど」
ボクは社会人だ。
この家で唯一お金を稼げる人間だ。
どれだけ不本意でも仕事を第一優先にしなければならない。
そして同居人は働いていないどころか、碌に家事もしてくれない。
仕事終わりや休日の自由時間でも、ボクの予定には必ず家事が組み込まれている。
そして自由時間の余白も大半はリラックスタイム――もとい、ひーくんに甘やかしてもらう時間である。
ふたり暮らしなのに仕事も家事もこなしているのだから、そのストレスは尋常ではない。
そんなストレスを溜め込んでいては精神を病んでしまうのはわかりきっている。
したがって、このイチャイチャタイムも削れない。
つまりは何が言いたいかと言うと、コス作りに割く時間が基本的に少ないのだ。
旬のキャラのコスを作れたことなんて、今までに一度も無い。
「ふーん……じゃあ、コスを作れる人に依頼するとかは」
「それはちょっと……やっぱり、ひーくんのコスはボクが作りたいし、全部自分で作る方がアレンジもしやすいし……」
「えっちなアレンジ?」
「っ……えっちかどうかは、わからないよ? えっちかどうかの基準も、人に依るだろうし?」
「ん~~…………じゃあ、僕がお手伝いしたらどう?」
「え?」
それは予想外の言葉だった。
「僕が家事を手伝って、ぬいくんが家に居る間はコス作りに専念できるようにしたら間に合う?」
「多分……それなら、なんとかなりそうだけど……いいの?」
「うん、いいよ~。ぬいくんがイベントで楽しめるように、僕がんばるからね~♪」
「ひーくん……!」
まさか、あのひーくんの口から家事を手伝う発言が出てくるなんて思わなかった。
もしかしたら、この日を境に積極的に家事を手伝ってくれるようになるんじゃないか。
そして追々は、アルバイトでも始めてくれるんじゃないか。
ひーくんの笑顔は、そんな希望を持たせてくれるものだった。
「ありがとう……ボクも頑張るね!」
「うん、いっしょに頑張ろう~!」
かくして、ボクはイベントまでにふたり分の新コスを完成させることができました。
ただ、ひーくんの決意は結局は口だけだったようで、全然家事を手伝ってはくれませんでした。
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