アルコールのせいにして

「ん~♡」

「っ、っ……」


 触れ合う唇と唇。

 しっかりと両手で顔を固定されて、逃げる振りすらも許されない。


「ちゅっ、ちゅ~♡」


 柔らかく、優しく、何度も口づけを交わす。

 だめだよ、と嗜める隙間も無いくらいに。


「んふ~♪ ぬいくんは可愛いねえ」


 こちらの気も知らず、ひーくんは楽しそうだ。

 キスをしているというのに、ひたすらに。


「んっ……も、もう終わりでいいよね? キスしたもんね?」


 我ながらなんてわざとらしい。

 こんなの、続きをせがんでいるようなものじゃないか。


「ん~? んふふ~♪ まだ~♪」

「んっ――」


 繰り返されるバードキス。

 海外では挨拶として交わされるようなキスは軽すぎて、逆にどんどんと欲求が高まってきてしまう。


 もっと、と素直に言えたらどんなにいいか。

 ひーくんのように振る舞えたらどんなに楽か。


 もっとも、こうも年下に甘えられるひーくんはちょっと特別な気もするけれど。


「ん~まっ♡」

「んぅっ……」

「……♪」

「な、なに?」


 唇を離したかと思えば、ひーくんはじっとこちらを見てくる。

 暗闇に慣れてきたからか、笑みを浮かべているらしいくらいはわかった。


「もっとキスしたいな~って、思って……いい?」


 もっと、と言うのは回数のことではないのだろう。

 ひーくんは唇を触れ合わせるキスのその先をしたいと言っているのだ。


「だっ、だめ……本当に寝れなくなっちゃうから……!」

「でも、ぬいくんもう寝れないでしょ? だったらスッキリしてから寝た方がいいんじゃない?」

「それ、ひーくんがスッキリしたいだけでしょ!?」

「そんなことないよ~。僕がちゃーんと、ぬいくんのことスッキリさせて、寝かしつけてあげるからね~」


 声だけでわかる。

 ひーくんは今、満面の笑顔なのだろう。


 こうなることはわかっていた。

 こうなることを期待していた。


 だからボクは、いつもは買わないお酒を買ったんだ。


「……ひーくんがそんなにしたいって言うなら……仕方ないから、いいよっ」

「えへへ~、ありがと~♪」


 こんな天邪鬼な態度、良くないことはわかってる。

 嫌々なフリをするより、素直に喜んだ方がひーくんだって嬉しいに決まってる。


 わかってる。

 それはわかってる。


 でも、だけど――


「ぬいく~ん……♡」

「で、でもやりすぎはダメだからね! 絶対にダメだからね!」

「は~い♡」


 ――だけどやっぱり、それは恥ずかしいから。


 仕方ないって言い訳が無いと、ボクは甘えられないから。

 そんなボクでも、ひーくんは甘やかしてくれるから。


「それじゃあ、ぬいくん?」

「?」

「今日も、大好きだよ♪」

「んぅっ――」


 口の中に入ってくる、ぬるりとした感覚。

 それをボクは拒絶もせず、迎え入れもせず、ただ受け入れる。


 仕方ないと、心の中で自分にいい聞かせながら。


「ぬいくんは可愛いね~♡」

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