例え100回ダメと言っても

「っ……!」


 つい漏れそうになった声を必死に抑えて。

 興奮で熱くなった吐息をなんとか潜めて。


 掛け布団越しのその重みに、ボクは全神経を集中させていた。


「ぬいくーん、寝ちゃった?」

「……」

「ぬ~い~く~ん~?」


 ゆさゆさと、掛け布団越しに体を揺すられる。

 寝ようとしている人に、明日も仕事だと言っている人にする行為としては最低な部類だ。


 でもボクはひーくんを怒ったりしない。

 声を荒立てて、寝かせてくれと怒鳴ったりもしない。


 ただされるがままに、流されるがままに、その先を、ボクは期待するばかりで――


「そんなにお布団被ってたら、暑いし息苦しいでしょ……はいっ♪」


 頭まで被っていた布団を剥ぎ取られ、息苦しかった呼吸が途端に楽になる。


「……」

「……♪」


 暗闇の中、ボクの顔を覗き込んでいるひーくん。

 視線は交差しているはずだけれど、その表情まではよくわからない。

 多分、ひーくんからも見えていない――そう思いたい。


「やっぱり起きてたね」

「……ひーくんがうるさいから眠れないの」

「えへへ~ごめん~」


 その謝罪に悪びれた様子が微塵も感じられないのは、ボクの非難に責める意思が少しも込もっていないからかもしれない。


「ねえ、ぬいくん?」

「……なに?」

「ちゅー、していい?」


 いいよ。

 そう言いたくなる心を、ぐっと締め付ける。


「だめ」

「どうして?」

「だって、絶対その先もするつもりでしょ」


 それは推測だろうか。

 それとも願望だろうか。


「しないよ~。僕はぬいくんが嫌がるようなことは、絶対にしないもん。そうでしょ?」

「っ……」


 ずるい言い方。

 事実なところが、一際ずるい。


「だめったらだめ!」

「あっ」


 ぐりんと寝返りを打って、ひーくんから体ごと顔を背ける。


 否定すればするほどに。

 拒絶すればするほどに。


 求められているという悦びが膨れ上がっていくのを感じてしまう。


「ふふっ……ぬいく~ん♪」

「ひゃっ!?」


 大きな手が首に絡み付いてくる。


 温かくて、心地よくて、それでいて少しこそばゆい。

 押しのける気すら起きない手つき。


「~~♪」

「っ……ふっ……」


 首元を弄っていた手は徐々にボクの体を登り始める。


 首。

 顎。

 唇――を少し通り過ぎて鼻――


「んぅっ」

「あははっ。ごめんね、くすぐったかった?」


 謝罪のつもりなのか、ひーくんは指先でボクの鼻先をふわふわと触った。


「んっ、ひっ、ひーくん、やめっ――!?」


 ついひーくんの方を向いてしまって、静止を呼びかけようとしたところで、唇がひーくんの手に覆われてしまう。

 そして、そのまま――


「っ――」


 ――ひーくんの手で抵抗を遮られたたまま、ボクの唇はひーくんの唇と重なった。

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