第152話

「そんな事をしても無駄むだだ。どんな事をしても死なぬ。私は何度でもよみがえる。お前たちをむさぼり、モルモフを支配する」

 血の女神ヘザーがすごむ。

「あら、殺さないわよ。ふうじるの。宮殿ごと、本にするのよ」

 アイリスの言葉に、血の女神ヘザーの口が、ガアーッ! と開いた。

「あー! あーいーやぁー! もうイぃやぁだぁー!」

 ヘザーの中から別の女神が叫んだ。

「嫌ー! 宮殿の奥深く閉じ込められてー! 白く押し込まれてー! また封じ込められるー!」

「殺されて宮殿の中に白く閉じ込められたのに。もう狂っているのに。死んだのに。それでも白くなれない。黒くにごる。くさる。よどむ。私が悪い。悪くない。まわりが悪い。白が悪い。白があく

「もうたくさんなの……こわれたの……さびしいわたしをつめたくつぶすの……」

「封じて封じて封じて封じて殺して殺して殺して殺して許さない許さない許さない許さない殺す殺す殺す殺す」

 悲鳴に怒号どごう。死んだ女神たちが、恐怖におののき怒りに身を震わせて、口々に叫びだす。ヘザーの口から積年せきねんうらみがほとばしる。

「んー、もうっ! だから本にするって言ってるでしょ! だまれって言ってんじゃなくて、その逆よ。本になって思いのたけを文字にして、伝えなさいって言ってんの! 部屋の角でうじうじねちねち文句たれてたって、誰にも届かないのよ。言いたい事があるなら、本になって言いなさいよ!」

 アイリスがヘザーを怒鳴どなりつけた。

 死んだ女神の集合体、血の女神ヘザーの髪が怒りで逆立さかだつ。

「ふざけるな! 読む者などおらぬ本にして、館の地下の奥深く、深く深くめて封じる気だろ!」

 死んだ女神の怒りがうねり、ものすごい力で魔女の杖を押し返そうとする。アイリスは歯を食いしばり、杖をにぎる手に力を込めた。

「手伝うよ」

 声とともにチャシュの手が杖をにぎる。あたたかなチャシュの力が流れ込んでくる。

「ありがとう。愛してるわ、チャシュ」

「僕もだよ」

 チャシュが耳元でささやいた。

 死んだ女神の怒りが増してうずを巻く。

「わかる者などいない。我らのこの苦しみを、怒りを、孤独を、悲しみを、わかる者など、この広い世界にただのひとりもおらぬわ。読めると思うのか? 我らが読ませるとでも思ったか? 誰が読ませるものか。きさまらなどに、モルモフの者どもに、誰が心のうちかそうか? れることすら許さない」

 ヘザーの目から赤い血があふれだす。

「じゃあ、一体いったいどうしてほしいんだよ? おまえらは、わかってほしいんだろ? だったら、ぐちゃぐちゃ言ってねーで、わかってくれる奴を探せばいいんじゃねーか!」

 アズキが怒鳴る。ヘザーがもの凄い形相ぎょうそうで、言葉にならないうなり声を発した。

「女神にしかわからない」

 由香里が言った。

「えっ⁉」

 全員が由香里を見た。


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