第150話

 アズキは由香里をお姫様抱っこすると、床の扉から下の階へ飛び下りた。青い円の中、アイリスの後ろに着地ちゃくちする。

「えっ⁉ 上から⁉ んー、もう! この宮殿、どんなつくりをしてるのよ?」

 驚くアイリス。

「合図をくれたら、受け止めてあげたのに」

 アイリスの隣で、青灰色のローブをまとった青年がほほ笑む。

「チャシュ!」

 アズキと由香里が同時に声を上げた。アズキは由香里を床におろすと、ガシッとチュシュをハグして背中をバンバン叩き、チャシュの頭をぐしゃぐしゃと乱暴に押さえつけるようになで回した。アズキの喜び方が手荒てあらだ。

「チャシュ、後でなぐらせろ。その前に、このタコ女を片付けるぞ」

 アズキがニヤリと笑う。とてもうれしそうだ。

 ヘザーは鬼の形相ぎょうそうで、金色のドレスのすそからうねうねと白いタコ足をうねらせる。

「アズキ、後で話そうか。ヘザーを片付けてからね。猫のドレス姿を見た者を、生かしておくわけにはいかないからね」

 チャシュがニコリと笑う。とても怒ってそう。

 ヘザーの白いタコ足がうねりながら飛んできて、アイリスの青い結界を、ビタン! バチン! と殴打おうだする。

「そうだな。チャシュ、俺たちは親友だ。なぐり合いではなく、話し合いでチャラにしよう。行くぜ! ヘザー!」

 アズキは青い円の外へ飛び出すと、おそい来るタコ足を極彩色ごくさいしきの布バンドで払い切る。バンドというより帯状おびじょう刃物はものみたいだ。

「僕のドレス姿を見たんだね、アズキ。そして笑ったね」

 チャシュは冷ややかな微笑びしょうを浮かべると、アズキの後に続いた。チャシュの青灰色の布バンドには、花飾りがついていた。

「由香里、後で猫にドレスを着せるのを手伝ってね。もう少し手直てなおしをしたいのよね、あのドレス」

 アイリスがさらりと言った。由香里が目を丸くしてアイリスを見た。ウソでしょ⁉ 今の話を聞いてた? ムリむり無理、こわいって! フルフルと首を振る由香里。 

「じゃ、そういう事でよろしく。んー、それで今の状況じょうきょうなんだけど」

 アイリスはさらりと切りかえた。

「ヘザーの本体が、どこにあるのかわからないのよね。タコ女の姿は本体じゃないわ。本体ごとさなきゃダメなのよ。んー、由香里、大丈夫? 立てない状態じょうたい?」

 由香里はずっとしゃがみ込んだままだ。傷ついた右腕に、青灰色の布を包帯ほうたいがわりに巻いている。布には血がみていた。

「うーん。ちょっと。なんか、かなり血を失ったみたいで……。あぁそうか、腕を切りつけてナイフで血を吸っていたのか……。女神の血……、女神の体……」

 床にひざをついたまま考え込む由香里。その目の前で、アズキに切断せつだんされたヘザーの白いタコ足がのたうち回り、チャシュに切りきざまれたタコ足が白い床にしずんで消える。

 すべての足を失ったヘザーを、アズキがバンドで頭から一刀両断いっとうりょうだんたてに真っ二つになったヘザーの体は左右にたおれ、白い床に沈んで消えた。

 青い帯の円の中へ、チャシュとアズキが戻ってきた。二人とも油断ゆだんなく、ヘザーの沈んだ床を見ている。

「んー、よくない状況なのかしら? ヘザーの本体は?」

「悪いな。かった。気をつけろ。また来るぞ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る