第141話

 翌日の昼過ぎ。

「由香里ー! 起きてるー?」

 アイリスが元気よく部屋に入ってきた。

「あ、うん。さっき起きて、今ちょうどスープを飲み終わったところ」

「ん、ちょうどいいタイミングね。ちょっと来て見て」

 アイリスは由香里の手を引っ張ってドアの向こう、本の館へ連れて行った。その後をウサギがピョンピョン追いかける。

「見て見て、由香里。どう?」

 灰色の石の猫が、青灰色のドレスを着ていた。

「わぁ、きれい。すごい。これ、アイリスが作ったの? すてき」

 ドレスはふんわりやわらかで、長く広がるすそはなめらかで美しかった。猫の頭には、布で作った青灰色の花飾り。花は頭からこぼれ落ちるように流れてドレスを飾っている。

「ウエディングドレスみたい」

「んー、まあね。石化がけたら、人の姿にもこんな感じのドレスを着せてみようかしら、って思ってるんだけど」

「すてき。すっごく似合にあいそう。人のチャシュのドレス姿もきれいだと思う」

「ん、でしょ、でしょ」

 アイリスと由香里は、チャシュの女装姿を想像してキャッキャッと盛り上がっている。机の上に飛び乗ったウサギは、ドレス姿の猫を見て大笑い。

「チャシュ! すっげー似合ってんじゃねーか! 猫がドレス着てる! おもしれー! チャシュがウェディングドレスって、あははは!」

 泣きれるかわりに、笑い転げて盛り上がり、落ち着いたところでアイリスが布を取り出した。

「二人とも手を出して」

 アイリスは由香里とアズキの手首に青灰色の布を巻いた。アイリスの手首にも同じ布が巻いてある。

「んー、これでよし。それじゃあ行くわよ」

 アイリスはチャシュを見た。石になったチャシュは動かない。

「宮殿の中に入って、中心に魔女の杖を突き立てて本にする。それだけよ。出発!」

 アイリスは青い杖を握りしめ、ドアを開けて外に出た。

「チャシュ、先に行ってるからな。後から来いよ。さっさと追いついてこいよ」

 人の姿になったアズキはそう言うと、由香里の手を取りドアをくぐった。

「チャシュ、行ってきます」

 由香里がチャシュに手を振ると、館のドアがパタンと閉じた。青灰色のドレスを着た石の猫が、ドアの向こうに見えなくなった。

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