第138話

 それから何日も作戦をった。

 昼頃にアイリスとチャシュが部屋に来て、一緒に昼食のスープを飲んで、それから本の館に移動して作戦会議をして、夕方解散。

 机の上には本がいくつも広げられ、図形やら呪文やらなんやらのメモが散らばり、あーでもない、こーでもないと頭をしぼった。そうしている間にも、視界のすみで石の本が砂になり、サラサラと砂のくずれる音がする……。机の上に広げた本が、散らばったメモが、石になってゆく……。石化を止める方法も解く方法もわからないまま、石化が進んでゆく……。その中で、今できることをする。血の女神ヘザーを倒す。

「魔術は私とチャシュにまかせて。由香里は絶対に守るから」

 そう言ってアイリスは、力強くあたたかく由香里をハグした。チャシュが由香里に体をこすりつける。

「由香里はアズキとゆっくり寝て休むのよ」

 アズキとゆっくり寝るのは無理なんだけどなぁ。由香里は心の中で呟いた。

 一晩中イチャイチャして、朝方から昼まで眠る日が続いている。由香里としては、一晩中ぐっすり眠って、午前中と夕方は、武術と歌と踊りと楽器をして過ごしたい、と思っているのだけれど……。夕方、アイリスたちが返ると、アズキに押し倒されて押し流されて、朝まで解放してもらえない。夜なのに休めない。

 女神殺しのアズキを受け入れている自分を、どうかしていると思わなくもないけれど、ためらいもあるけれど……。自分が女神であることも、血塗ちぬられた女神の記憶も怒りも寂しさも、重くて苦しい……。でも、私はここで、アズキと一緒に生きてゆく。

「んー、こんなところね」

 作戦を練り終えて、アイリスが息をつく。

「できる準備は全てやったわ。あとはぶっつけ本番よ。今夜一晩ゆっくり休んで、明日、行くわよ!」

「おう!」

「うん」

 チャシュの返事がなかった。また寝てるのか。振り向くと、チャシュが石になっていた。

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