第134話

 召喚しょうかんされておびえてパニックになった女神をなだめて抱いて、依存いぞんされてしがみつかれてすがられて、重くてキツくてしんどくて、他のツガイモに後をまかせて宮殿を離れ、呼び戻されて、おかしくなった女神を殺す。そのり返しだ。

 女神はツガイモに当たり散らし、ストレスのはけ口にする。宮殿の中に最高級の家具をそろ装飾そうしょくし、金銀財宝ざいほうかこまれ美しい衣装に身をかざり、美味おいしい物を食べ男をはべらせまわりからちやほやされて、やがてきる。そしてむ。

 宮殿の中から装飾が消え、家具が消え、金銀財宝衣装が消えて、生活感が消え、生活しゅうが消えて、女神の宮殿は何もない真っ白なはこになってゆくんだ。

 中には大人おしなしい女神もいた。

 宮殿の奥でひっそりとらすい女神だと言われていた。そんな女神に久しぶりに会ったら、うつろな目をして死体のようにベッドに横になっていた。心が死んでいたんだ。ああなるともう、どんなにツガイモの精を注いでも助からない。女神は血を吐いて死んでいった。

 ヘザーは、あの女は……。

 はじめの頃は、ヘザーも他の女神と変わらなかった。元の世界に戻せ云々うんぬんわめいていた。俺はそんなヘザーを抱いて、あとは他のツガイモに任せて宮殿を離れた。

 ヘザーはツガイモを薬として割り切ると、男を見取みどり取り揃え、え引っ替え男狂い、それに飽きてくると、今度は魔術に興味を持った。魔術師を呼び寄せ師事しじして殺し、魔術書を読みあさった。

 俺とチャシュが宮殿に戻った時には、まわりがおかしくなっていたんだ。 

 ヘザーのまわりには切り刻まれた死体の山ができていた。そんなヘザーに、誰もが心酔しんすいしていた。誰も彼もが狂ってた。ヘザーに、死んで、と言われた者は喜んで自分の心臓にナイフを突き立てた。

 ヘザーに見つめられ、その声を聞くだけで、心と体を支配される。俺は、心は支配されなかったが、体はだめだった。あの女を前にすると、体が反応するんだ。おさえられなかった。

 この女はヤバい。俺とチャシュの独断で、二人でヘザーを殺した。あの時、正気だったのは、俺とチャシュだけだったからな。

 俺は由香里の世界に落ちた時、これでツガイモからも女神からも解放されたと思ったよ。ここで野垂のたれ死んでも、モルモフに戻るよりはマシだと思った。

 

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