第129話

 ヘザーが両手を広げた。

 そのとたん、壁、床、天井、全ての面にたくさんの映像が映し出された。

 ツガイモに抱かれ、暗殺者に殺されて、この部屋で冷たくなった女神たち。その記憶が映像となって、由香里の中に流れ込んでくる。真っ白い床を血にめて死にゆく女神。白い壁、白い天井、何もない白い部屋。その目から光が消える。

 数多あまたの女神、次々と映し出される記憶の中に、由香里の見知みしった顔があった。ヘザーはそれを見逃さなかった。

「ほう。気になる者を見つけたか。どれ、一人ずつ見てみるか。まずは、この女から」

 映像が切りわる。

「ハニービーン。この女は、女神を抱いてなぐされさせて骨抜ほねぬきにして、殺した。その手口てぐちあざやかで、この女に殺されるのなら本望ほんもうだと思わせた。殺した女神にうらまれなかった唯一ゆいつの暗殺者と言っていい」

 ビーに抱かれ体をくねらせとろけてあえぎ、寂しげに別れをしむように目を閉じて息絶いきたえてゆく女神たち。ビーはうすく笑いながら、あやしく鮮やかに美しく、死にゆく女神を見下みおろしていた。

「二人目は、ナルキッス。こやつもアルキスと同じ、ツガイモでありながら女神殺しだ。はじめは嫌がる女神を強引に抱いて、男の味を、男に抱かれるよろこびを教え込む。こやつはかなりのテクニシャンでな、他の男では満足できぬ体にしておいて、身も心もささげさせ、なさ容赦ようしゃなく切って捨てた」

 映像の中でナルシィは、荒々あらあらしく女神を抱いて狂わせ欲情させていた。女神を切り捨て刀をさやにおさめると、振り返ることなく去ってゆく。その背中が、つまらぬ女だったとかたっていた。ナルシィを恨みながら息絶えてゆく女神たち。

「三人目は、チャシュだな。一見いっけんただの優男やさおとこにしか見えぬが、これで凄腕すごうでの暗殺者よ。色仕掛けを使わない。私に見向きもしなかった。珍しい男よのう。宮殿の外に女神を連れ出し、気付かれる事なく殺す。誰にどうやって殺されたのかわからぬ、そのほとんどが、この男の仕業しわざよ」

 映像は、チャシュが優しくほほ笑みながら女神と連れ立って歩いているものばかりで、殺されたものはなかった。死にぎわに、チャシュに抱きとめられた女神が何人かいただけだ。もしかしたら、抱きとめられた時にとどめをされたのかもしれないが。

「そして、最後にアルキス。ツガイモのレアで、たくさんの女神を殺した男。罪深き男」

 映像がチャシュからアルキスに切り替わる。それは、そこに映し出されていたのは、緑色の目に栗毛の美男。

 アルキスが女神を抱きせ、その耳元に甘くささやく。口づけで女神の息をうばい舌をからめて唾液だえきが糸を引く。その手が女神のなまめかしい肌をなでまさぐみしだく。たくさんの女神がアルキスの下で蕩けがり、息も絶え絶えに喘いでいた。

「アルキスは、女神を快楽かいらくぬまに引きずりこむ。一度はまると抜け出せない。男なしでは生きられぬ体になる。女神はアルキスにがれ、泣きながら狂おしく、他の男に抱かれるのだ」

 アルキスは、血を流しすがりつく女神を邪険じゃけんに振り払うと、さげすむように見下ろした。言葉にならぬ血を吐いて息絶えてゆく女神たち。

「アルキス。私を殺した愛する男」

 ヘザーの記憶が映し出される。

 ヘザーがアルキスと熱く抱き合いからみ合う。濃厚のうこうなラブシーンが延々と続き、最期にアルキスがヘザーののどを切りいて終わった。死にゆくヘザーを見下ろすアルキスの目は、氷のように冷たかった。

「どうだ? これでわかっただろう」

 映像が消え、元の白い部屋に戻った。

「私はお前の味方みかただ。お前は魔女と暗殺者に、だまされ閉じ込められ」

 パンッ!

 由香里は夢から飛び出した。




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