第128話

「はぁ? 私の話をきいているのですか? 私は今、あなたの命にかかわる話をしているのですよ」

 由香里は女の人を指さした。

「体と声と話している人が違う。Aの体とBの声を使って、Cが話している。そのズレが気持ち悪くて、話が入ってこない」

「……この方が話しやすいと思ったのだがな」

 女の人の口調くちょうが変わった。雰囲気ふんいきが。

臆病おくびょうなお前でも、このせ女とこの気弱な女の声と話し方なら、逃げずに話を聞くと思ったのだがな。まさかの気持ち悪いときたか」

 どろり。女の人の体がくずれてけた。

 べちゃり。床の上に水溜みずたまりとなって広がった。

 ねっとり。にごった水がり上がり、人の姿になってゆく。

 ずるり。血のしたたる赤いドレスを身にまとう、血の女神が現れた。

「……羽化うかしてたんだ」 

 由香里がつぶやく。

 血のドレスは見る見るかわき、金色に変化した。白く輝く宮殿に、金色に光り輝く女神が現れた。真っぐな黒い髪、キリリとした黒いまゆ、クッキリとしたアイラインに縁取ふちどられた金色に輝く目。日に焼けたはだに金色のドレスがぴったりと張りつき、そのボディラインを見せつけている。長身で目力めぢから強くてあでやかで、威圧的いあつてき

「A、Bと違って、Cはゴージャスだね」

「Cではない。ヘザーだ」

「そうなんだ。それで?」

「A、Bも同じ、殺された女神だ。話した内容に噓偽うそいつわりはい。このままでは、お前もいずれ殺される。私はお前を助けたい。……その顔は、信じてないな。ならば、これを見せてやろう。血塗ちぬられた女神の記憶を」

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