第127話

 知ってる名前と知らない名前が出てきた。

「女神を殺す指示を出すのがアイリス。その指示を受けて、女神とツガイモを殺すのがチャシュなのです。」

「なぜツガイモを?」

「ツガイモは女神を守る者だからです。暗殺者のアルキスは、ツガイモでありながら女神殺しという二つの顔を持つ男です。モルモフを追放ついほうされましたが、いつ戻ってくるやもしれません。もうすでに戻ってきているやもしれません」

 過去にそういう魔女や暗殺者がいたのだろう。由香里はビーを思い浮かべた。

「アイリスもチャシュも信用してはなりません。あの二人は宮殿に入ることができません。だから女神が宮殿に戻らぬように、言葉たくみに、時には幻術げんじゅつや夢や催眠術さいみんじゅつを使い、宮殿は恐ろしい場所だと思い込ませるのです。げんにあなたもそうやって」

 女の人は由香里のTシャツを指さした。

「宮殿に入れないように、魔術で作られた服を着せられているではありませんか。どうかその服を脱いでください」

 由香里の体はけている。その透けた体を、あわく光る緑色のTシャツが包み込んでいる。

「魔女と暗殺者はさりげなく親切心をよそおって女神に近づき、だましてうその話を言い聞かせるのです。たったひとり異世界に放り込まれ、右も左もわからぬ時に親切に世話をしてもらったら、誰だってその人をたより信じるでしょう。その人の話を全て鵜吞うのみにするでしょう。あなたも私も女神はみなそうやって騙されたのです」

 女の人は悲痛ひつう面持おももちで声でうったえた。

「私を信じて下さい。私は女神です。あなたと同じ、異世界からきた女です。私はあなたを助けたいのです」

 由香里はゆっくり立ち上がって言った。

「気持ち悪い」

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