第126話

 不意ふいにグイッと引っ張られ、目を開けると真っ白だった……。

 白く白く真っ白に光り輝く女神の宮殿、白い夢。窓もドアも何もない白い部屋に一人、女の人がいた。真っ白なワンピース、それはまるで、白い床から白いワンピースの女の人が生えているようだった。

 冷たくかたい床の上に由香里はペタンと座ったまま、目の前に立つ女の人を見上げた。

「大丈夫ですか? ずっと呼んでいたのですよ。私の声が届いてよかった」

 か細い声だった。折れそうなほど細い体。不安げにれるひとみ。紙のように白い肌。見た感じは日本人っぽいな、と由香里は思った。この人から血の臭いがする。

「心を落ち着けて、私の話を聞いて下さい。私もあなたと同じ女神です。魔女によってモルモフに召喚され、そして殺されたのです。このままでは、あなたも殺されます」

 そう言われても、由香里はあまり驚かなかった。発作で何度も死にかけてるるし、修業で何度も殺されかけたし、不死の樹海では何度も殺された。修業をしたのは自分とアズキを守るため。この宮殿の中、白い夢で、化け物に殺されないために。

「モルモフの女神は消耗品しょうもうひんです。具合ぐあいが悪くなったら取り替える。使い勝手がってが悪くなったら、こわれたら、てて新しい者を入れる。この意味がわかりますか?」

 女神がすこやかならモルモフもさかえ、女神がめばモルモフも荒廃こうはいする。ならばもし、女神の心が病んだなら、モルモフはどうするか? それは由香里も考えた。その答えがこれか。

「何の説明も承諾しょうだくもなく勝手にモルモフに連れてきて、女神としてまつり上げ、気に入らなくなったら殺す。子供を産むことも元の世界に戻ることもできなくして、全てをうばあざけ侮辱ぶじょくしてみにじり、殺して捨てた。ゴミのように」

 か細い声、その言葉におさえきれない感情がにじむ。

「……死んだ女神の体は? この部屋の下に、宮殿の中に眠っているの?」

「いいえ、眠ってなどいません」

 女の人は静かに立ったまま首を振った。

「死んだ女神の体は、モルモフの外に捨てられるのです。元の世界に捨てられる。女神の召喚とは、女神の死体と新しい女神を交換することです」

 死んだら元の世界に返品されるということか。キツイな、それは。今さら元の世界に戻されても、眠れる場所などない気がする。女神は死んでも安らかに眠ることすらできないらしい……。その結果がこれか。由香里は目の前に立つ女の人を見た。

「それで? 私を呼んだのは?」

「あなたを守るためです」

「何から?」

「魔女と暗殺者アサシンからです」

「えっ?」

「魔女のアイリス。暗殺者はチャシュとアルキス」




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