第124話

 由香里の指が髪にれ、ウサギの時と同じようになでなでした。これはこれで気持ちいいのだが、今じゃない。今さわるべき場所は、絶対にそこじゃない。由香里、ビーの話を聞いてたか?

 由香里の手は頭から肩に移動して、そのまま肩甲骨けんこうこつ、背骨、背筋はいきんへとりてゆく。骨格こっかくや筋肉のつき方を調べている。俺は今、触診しゅくしんを受けているのだろうか?

「……アズキって、けっこう筋肉ついてるんだね。何か武術やってたの?」

「まぁな」

 アズキは言いよどんだ。かくさずに話しておいた方がいい、とナルシィにもビーにも言われたが……。どう言えばいいんだ?

「俺は最強だからな」

 誤魔化ごまかした。由香里は何も気づかない。

「そうなんだ。ビーの本の中で、アズキは甘い物ばかり食べていたでしょ。ムニムニのぷよぷよになったらダイエットかなって思ってたけど。良かった。これなら必要ないね。一応いちおうビーに、アズキのダイエットメニューを聞いといたんだけどね」

「どんなメニューだ? 激辛げきから食ってせるとかじゃねーよな」

「うん。違うよ。死なない程度ていどに運動して体をしぼるメニューだよ」

「死っ、死なない程度って⁉ それは運動じゃねーだろ!」

「うん。やってみたい? 最強ならクリアできるかも」

 由香里がフフッと笑う。

「ぜってーやらねー」

「だよねー」

 由香里の手が背中から肩へ戻り、肩から胸筋きょうきんへ下りてくる。こ、これは、バックハグか? 触診か? 胸筋を調べ終え、一旦いったん引っ込んだ手が背中から肋骨ろっこつをなぞって前にまわり腹筋を触る。調べる。そのままへそへ、その下へ、由香里の手が下りてくる。

 おそるおそるさわさわと不思議そうに触ってくる。どんな形をしてるのかと指で手のひらでさぐってくる。確かめてくる。優しく柔らかくまさぐって、そっと手のひらで包み込む。それは身をよじるほどのじれったい甘ったるい拷問ごうもんだった。アズキは息をみだすまいと歯を食いしばる。

「由っ香里、もう少し、強くっ」

「えっ、これ、にぎめてもいいものなの? ビーが、握りつぶしたり爪を立てたり引っこ抜いたら駄目だめだぉ、って言ってたけど?」

 だーかーらー、あぁっ。ビーの奴、マジで何にも教えてねーな。暗殺術ばっか教えやがって。

「ちげーよ。加減かげんってものがっあんだろっ」

管弦かげん? ……あ、さじ加減? 力加減、どのくらい?」

 由香里は愛撫あいぶをわかってない。男の体もわかってない。何で俺ばっかり欲情してんだよ。由香里も俺に欲情しろよ。

「アズキ、苦しそうだけど大丈夫?」

 由香里の声がうなじをくすぐる。あっ、くそっ、もう限界だ。

「え? どしたの? いきなり何? ちょっと待って。まだ途中とちゅうだから。まださわり終わってない」

 パニクる由香里をキスでだまらせ、アズキは由香里の中に身をしずめた。



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