第115話

 なんだかんだ言いつつありつつも、由香里はビーのしごきについていった。

 ウサギは小屋でお留守番。木の実草の実甘い実をむちゃむちゃむちゃむちゃ食べながら、食っちゃ食っちゃ寝のほほんと、由香里の帰りを寝て待った。アズキがのんびり過ごした数日間、由香里は数年数十年の修業をした。

 森や林の向こうから時折ときおり由香里の叫び声が聞こえたような気もしたが、アズキは気にせず食っちゃ寝した。マジでヤバい時にはビーが呼びに来るはずだ。そこはビーを信用した。

 由香里は毎回必ずお土産みやげに甘い木の実や草の実を持って帰ってきた。アズキはおどりあがって喜んだ。甘い果実にかぶりつくウサギの横に、疲れた由香里がバタンキュー。アズキは人の姿に戻ると、疲れ切って動けない由香里を抱いた。

 疲れてなくても元気でも、毎晩毎日朝から晩まで四六時中しろくじちゅう、俺は由香里を抱きしめていたい。イチャイチャしたい。なのに自由に自分の意思いしで人の姿に戻れない。しかも由香里にその気がない。全くない。何でだよ!

「やい、ビー。俺をずっと人の姿にしろ。俺を由香里とイチャつかせろ」

 そうビーに文句を言ったら、歩く媚薬びやくが、うふん、と笑って舌なめずり。

「イチャつくならぁあたしもぉまぜてぇん」

「なっ……」

 思わず鼻息があらくなるウサギ。そ、それは楽しそうだが……迷うぜ。

 ビーはキャラキャラ笑ってひょうの姿になると、長い尻尾でピシパシとウサギをたたいた。

「ドスケベぇなうさちゃん。おあずけちゃぁん。イチャつくのはぁ本を出てからのぉお楽しみだお。このあたしのぉ訓練メニューをクリアしたんだからぁ色気はなくてもそれなりにぃ。それはぁあたしが保証しちゃうお」

 豹がウサギを見て舌なめずり。イチャつく前に俺の体が豹の胃におさまる気がする。一刻いっこくも早くここから出たいぜ。

「ついでにぃ言っちゃうとぉ由香りんはぁあたしのメニューをオールクリアしないとぉこの本からはぁ出られないんだぉ。最後のページのぉ最後の一行までぇ読み終えないとぉこの本を閉じることはぁできないんだぉ」

「おいおい、どんなメニューだよ? 俺にはこの本の内容がさっぱりわかんねーぞ」

「さぁにゃん。教えないぉ」

 そう言って豹は金色の目を細め、うすく笑った。

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