第113話

 ビーが楽器をズラリと並べて由香里に言った。

「好きなのいてぇ歌ってぇ踊ってみてぇん」

 その結果。

「うにゃにゃにゃあぁぁぁ」

 驚き桃の木山椒さんしょの木! 豹が木から落ちてきた! それほど由香里はひどかった。由香里は楽器をいじくり回し、楽器が我鳴がなる。ゾゾゾと豹の毛が波立なみだった。

「楽器からぁこぉんなぁひどぉい音がぁ出るなんてえぇぇぇ。初めて聞く音なんだおぉぉぉ」

 さらに由香里はズレ音を口ずさみ、奇妙きみょうなテンポで体をらしだした。本人は歌っているつもりらしいが、原形が一切いっさい残ってない。歌詞だけは合っている。はっきり言って不気味だ。

「うにゃんたるぉんうさたんたん」

 豹がウサギを前足でチョイチョイ小突こづく。

「あぁれぇはぁにゃあにぃぃ? あれがぁ由香りんの世界のぉぉ音楽にゃのん? 踊りにゃのん?」

 ウサギは耳を伏せ目を閉じて草をはむはむ食べながら言った。

「ちげーよ。あんなんじゃねーよ。由香里の世界の音楽も踊りもすっげーいいぜ。あれはただただシンプルに由香里があまりに下手なだけ。元歌踊りを知ってる俺でさえ、耳と目を疑うレベルだぜ」

「うにゃにゃあぁん」

 豹が頭をかかえて転がった。

「由香里に教えるのはあきらめたほうがいいんじゃね?」

「うにゃぁぁぁ」

 黄色地に黒斑点はんてんの豹の体が倒木とうぼく隙間すきまにすっぽりはまり、そこから液体のように流れ出てきた。これはこれで不気味だ。

「でもにゃぁぁ由香りんがぁ音をはずしているのはぁ」

「あれは外してるってレベルじゃねーだろ」

「由香りんがぁ音楽を理解してなぁいだけにゃからぁぁ。楽器もぉ踊りもぉ同じなおぉ。あたしを引き寄せたんにゃからぁ素質はあるのにゃあぁぁ」

 のってきた由香里は、もったりガクシャク謎の動きでリズムをきざみ、呪文のような音を発している。

「ありゃあどう見てもねーだろ」

 あきれるウサギ。ビーはうにゃんと伸びをすると人の姿になった。

「あたしはぁ由香りんと一緒にぃ踊るんだおん。ドキドキぃワクワクぅうっきゅんねぇん」

 元気復活! やる気満々みなぎるビー。

「えっえっえっ?」

 テンション急上昇のビーに飛びつかれ抱きつかれ、目を白黒させる由香里。

「ピーといいナルシィのといい、由香里は変な奴に好かれるなぁ」

 アズキは草をはむはむ食べながら、やれやれと首を振った。

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