第112話

 ビーの本に入って何年もしくは何十年も過ぎた気がする。そんなある日、ビーが言った。

「今日からぁ待ちに待ったぁ歌と踊りと楽器を始めるぴょんだぉん」

 ビーはクルリンピョンと宙返ちゅうがえり。

「……待っていないし初耳だけど、そうなんだ」

「お祭りでぇ酒場でぇうたげの席でぇ歌ってぇ踊ってぇ楽器をかなでるお。ついでに殺してるんだぉ」

「……ついでなんだ」

 ビーは何の感情もなく殺す。

「この本ではぁ色仕掛いろじかけはあつかわないぉ。そっちはぁたぁくさぁんの本がぁ出てるんだぉ」

「……たんさんあるんだ」

 どこの世界でも昔から色仕掛けはさかんに行われてきたらしい。色欲を引っ掛ける。

「由香りんはぁ歌とぉ踊りとぉ楽器のどれがぁ得意とくいだおん?」

 ビーが目をキラキラさせてのぞき込んでくる。由香里は目をらせた。

「……全部、苦手」

「うにゃぁ」

 ビーは目をクルリとさせた。

「心配ないぉ。手取り足取り教えるおん」

「それは……スリル満点だね」

 疾走しっそうする馬の上で踊りながら弓矢で飛ぶ鳥を仕留しとめろ、とか言いそうなビーである。心配しかない。今まで逃げなかった自分をめてあげたい。

「ワクワクしてぇドキドキときめいちゃってるお?」

 ビーがキャハキャハ笑いながらピョンピョンねている。ハイテンションではしゃいでる。

「……ドキドキしてるよ」

 ワクワクでもときめきでもなく不安でね。由香里は、ふぅー、と息を吐いた。先は長い。そんな気がする。

















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