第109話

 ビーは由香里に暗殺術を叩き込んだ。暗器あんきの使い方、毒の仕込み方、変装、潜入せんにゅう、etc.

 ドレスアップした由香里に見惚みとれるアズキ。豪華絢爛ごうかけんらんたる衣装。そのいたる所に隠された武器の数々。きらびやかな装飾品。そのほとんどが武器であり、毒が仕込まれている、と知ったウサギが後退あとずさる。

「こえーよ。今後、着飾きかざった女には近づかないことにする。用心するに越したことはないからな」

 由香里は普段着のジャージに着替えると、隠し武器、暗器をズラリと並べて考えた。ナマコムシ、血の女神には、どの武器が使えるだろうか?

「……宮殿に、夢の中に、武器や毒を持ち込めるかな?」

「無理だな」

 アズキは即答そくとうした。

「宮殿の中に武器のたぐいは持ち込めない。宮殿内にある物で、女神を傷つける事はできない」

「……女神がガラスのコップを割って、その破片はへんで自分の手首を切ることは?」

「できない。切れないんだよ。がんばって、皮一枚ってとこかな。致命傷ちめいしょうにもならないし出血死しゅっけつしも無理だ」

 女神は自殺をこころみて、死ねない事に絶望する。

「……女神がそれでツガイモをすことは?」

「できる」

 女神に殺されるツガイモは多い。

「……女神を殺す、女神が自殺するには、宮殿の外でなければならないってこと?」

「そういうこと。自殺にかんしては外でも無理だけどな」

 実際には、宮殿内で殺される女神の方が多いんだけどな。

「……宮殿の中は難しいかぁ。外におびき出すほうがいいかな。ビーはどう思う?」

「うにゃ。あたしをおびき出すにはぁ祭りをすればいいお。歌と踊りがあればぁわなでも参加しちゃうおん。ナルキッスはぁ女と酒を用意すればぁすぐに罠にかかるおん」

「……そうなんだ。すごいね」

「おん。でもぉその化け物はぁ宮殿の外にぃ出られないのかもぉ。夢を使ってまで

ぇ由香りんを宮殿の中にぃ引っ張ってるおん。宮殿がぁ閉じ込めているのかもぉ。由香りんを食べたらぁ外に出てくるのかもぉ」

「……そうかもね。……ツガイモの精を人工的につくることはできないの? 培養ばいようするとか、成分だけならつくれそうじゃない? 薬とか点滴とかサプリとかで、ツガイモ不足をおぎなうことは? 女神のクローンとかを試したりとかしてないの?」

「したお」

「おいおい、マジかよ。そんなの聞いたことねーぞ」

 ウサギが胡散臭うさんくさそうにビーを見た。

「薬もぉ精もぉツガイモもぉ女神もぉつくれなかったおん。その研究はぁ何ひとつ残せなかったぉ。残らなかったぉ。女神は異世界から召喚しょうかんしてぇ女神はツガイモの精がなければ生きられない。それはぁ変えられない。えはつくれないんだぉ」

「……そっか。ムリか。無理なんだ」

 由香里はズラリと並べた暗器を全て、着ているジャージの中へしまった。着飾らなくても武器は隠せる。






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