第95話

「白い夢を見た」

 昼食のスープを飲み終えて、由香里が言った。

「なっ⁉」

 ウトウトしていたウサギの耳とヒゲがピンッと立った。

「由っ香里ー! 起きてるー?」

 そこへ元気溌剌はつらつアイリスが、ババーン! と登場。ドアを開けて入ってきた。

「あ、うん。起きてるよ。今ちょうど昼食終わったところ。昨日見た白い夢の話をするところ」

「えっ? えっ⁉ えっ!」

 アイリスの青い目が驚きで丸くなる。

 アイリスの肩の上からチャシュがふわりと降りてきて、由香里をフンフン嗅ぎまわし、首をかしげた。

「においは何もついてないね。アズキ、君は気づいたのかい?」

「いや、全然。俺も今聞いて驚いている」

「君が由香里に話すひまあたえなかったんだね。由香里、夢で何を見たんだい?」

「ナマコ」

「……ナマコ?」

 アイリスとチャシュがキョトンとした。

 ナマコとは?

海鼠なまこ

 由香里が答える。

の物にするとおいしいらしい。……タコじゃなくてナマコかぁ。ナマコの調理法をネットで調べておけばよかったかなぁ」

 ナマコとは、おいしい食べ物らしい。

「あれを食うのかよ⁉」

 アズキが驚いて、ピョン、と飛び上がった。

「ナマコって、アレだろ? 内臓ないぞういてドロドロにける気持ち悪いグロいやつ。テレビでみたぞ」

 ナマコとは、グロテスクな生き物らしい。

「うん、それ。アズキ、テレビみてたんだ。てっきり目を開けて寝ているか、音に反応しているだけだと思ってた」

「バッチリみてたぜ。ハマったぜ。ドラマ、時代劇、バラエティー、ユーチューブ。由香里が会社に行ってる間はテレビとパソコン、由香里が寝ている間はスマホをみてた。ヤバいサイトとかは見てないから安心しろよ。履歴もそのつど消去した」

「そ、そうなんだ……」

「すげーだろ、俺。知性のかたまりだぜ」

 得意満面とくいまんめん。ウサギがドヤ顔で胸をる。

「……アズキって、バカっぽいわよね」

 アイリスがつぶやきチャシュがうなづく。

「アズキはバカだよ」

「おい、チャシュ、てめー、俺のどこがバカ……」

 チャシュがアズキに猫パンチをお見舞みまいした。アズキ、ノックアウト!

 チャシュはアズキを一撃いちげきだまらせると、優雅ゆうがにアズキの上に座り、おだやかに話の続きをうながした。

「由香里、そのナマコの白い夢をくわしく話してくれないかい」




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