第96話

 夢の話を終えた由香里は、自分の手を見て考え込んだ。

「……夢の中で、壁に当てた手はけてなかった。……女神の死体はどうなるの? どうするの? ……ツガイモは?」

 アズキが答えた。

「ツガイモは吐き出される。女神は飲み込まれる」

「……どういうこと?」

「こいつはもうツガイモとして役に立たない、ツガイモではない、と判断された者は、宮殿から吐き出される。死体は遠くへ吐き出される。用済ようずみってことで捨てられるのさ」

「……誰が判断するの?」

「宮殿さ。女神の宮殿は意志を持っている。そうだなぁ。由香里の世界でいうと、人工知能ってところかな。女神を守るようにプログラムされている」

「へぇー、そうなんだ」

「女神はどこにいようと死ぬ寸前に宮殿に引き戻される。瞬間移動して宮殿の中で息を引き取るんだ。死んだ女神の体は宮殿の床に沈む」

 宮殿の白い床にゆっくりと沈んでゆく、血まみれの女神の体。

「……そうなんだ」

 血も涙も心も体も宮殿に飲み込まれ、白く白く塗りつぶされてゆく女神。

「んー、そのナマコの悪霊化物は、いつから宮殿の中にいたのかしら?」

「もしかしたら100年前にはもうすでにいたのかもしれないね」

 チャシュの声は眠そうだ。ベッドの上、アズキの隣でゆったりと寝そべっている。

「おい、チャシュ、てめー、寝てんじゃねーよ。てめーの寝言ねごとは笑えねーんだよ。けてんじゃねーよ。けよ。眠りながら謎解きしろよ。眠りのチャシュ」

 チャシュはゆるりとを振って、目を閉じた。……謎解きタイムはおとずれない。おいおいダメだろ。考えているのか? 惰眠だみんのチャシュ。

「悪霊、怨念おんねんたたりかぁ。いっそのこと神様としてまつっちゃうとか? 宮殿ごと焼き払うとか、建てえるとか移すとか」

 由香里の発言に魔女とツガイモがビックリ仰天ぎょうてん

「いやいやいや、女神の宮殿を建て替えるとか移すとか、ないから。焼きはらうなんて物騒ぶっそうどころか、ぶっ飛んでるぜ。その発想はっそう斬新奇抜ざんしんきばつすぎんだろ。そもそも宮殿は焼けねーよ」

「燃えないんだ」

「んー、由香里の世界では、ナマコの女神の宮殿を燃やして移して建て替えたの?」

 アイリスの質問に女神の由香里がビックリ仰天。

「ナマコの女神⁉」

 どこをどうしてそうなった⁉ 斬新奇抜な解釈かいしゃくだ。

「えっとー、そうじゃなくて。ただ何となく、悪霊とか怨霊おんりょうで、菅原道真とか神社とか寺を連想れんそうしただけなんだけど」

「スガワラノミチザネ? 誰だそいつ?」

「ジンジャトカテラ? んー、それは何?」

 アズキとアイリスは興味津々きょうみしんしん、質問バンバン。チャシュはスヤスヤお休み中。

「あー、楽しかったわ。由香里の世界は面白おもしろくて不思議ね。またいろいろ聞かせてね。じゃあねー。明日の昼過ぎにまた来るわ」

 夕方、アイリスはヒラヒラと手を振ると、まだ寝てるチャシュを肩に乗せ、ドアの向こうへ消えていった。

 私の知識や説明が間違っていたら御免ごめんなさい。由香里は心の中で学問の神様に手を合わせた。


 




 

 

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