第92話

 白く白く光りかがやく女神の宮殿。その中に薄緑色うすみどりいろのTシャツ姿の由香里がひとりポツンと立っていた。

 そこは広い部屋だった。白くて冷たいツルツルの正方形の石の箱。白石はくせきの部屋の中。ここには何もない。でも……何かいる。由香里は五感をます。

 白い静寂せいじゃく。そのおくで、何かがうごめき変化する。

 部屋のかどから四隅よすみから、見えない傷がんでゆく。さびしさが膿んでくさってじゅくじゅくと、開いた傷からもぞもぞと

毛虫がうじゃうじゃいてくる。赤と黒の毒々どくどくしい毛むくじゃらの虫がうぞうぞと部屋の中をまわる。

 由香里は毛虫の毛に触れぬよう気づかれぬよう静かにそっと、赤黒い毛虫のあいだって歩いた。早くここから脱出だっしゅつしないと、危険。毛虫から血の臭いがする。

 毛虫たちはうじゃうじゃ集まり毛をからめ重なり合って、ねっとりねっちゃりくっついて、巨大な一匹の……これは何だろう? 由香里は首をかしげた。これは、いつだったかテレビで見た……海中生物のナマコに似ている。何にせよ、かなりヤバイ今の状況。由香里はあたりを見回した。

 真っ白な床の上、赤黒い巨大なナマコがぬめぬめと、ぬらりもぞりと這い回る。頭と尻から白い触手しょくしゅをわさわさ伸ばし、何かを探し回っている。何かを……えさを……ナマコは由香里を探している。

 真っ白な不自然に白く輝く部屋の中、由香里は壁の一部に自然な白を見つけた。そこだけが普通の白い石のような気がして、由香里はそこに手を当てた。瞬間、由香里は宮殿から抜けた。白い白い夢からめた。

 



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