第84話

 その様子ようすをツッチーとアズキは高台たかだいから見ていた。

「アズキ、あなたならどうしますか?」

 アズキは長いウサギ耳を片方だけツッチーに向けて答えた。

「殺さねぇよ。師を殺す事と、そいつの実力は別だからな。証明にはならねぇよ」

「では、ナルシィを殺せばここから出られるとしたら?」

「殺す」

 アズキはあっさりと迷いなく即答そくとうした。

「とは言ってもナルシィは、とっくの昔に死んでるからな。肉体はすでに無い。あるのはたましい。ここでナルシィをっても本が消滅しょうめつするわけじゃねぇ。ナルシィの本体ほんたいは本だからな」

「そうですね。……稽古けいこで師と互角ごかくの勝負ができるようになると血がたぎる。弟子はナルシィと本気の殺し合いをしたくなるのです」

「……。でも由香里は」

「はい。いつまでたっても、お稽古です。本気にならない。由香里には、る気が全くないのです」

「いい事じゃねぇか」

「いいえ。ころす気のない者は戦いで生き残れません」

 アズキはツッチーを見た。

「女神の由香里に戦えと? 殺気さっきみなぎる女神になれ、とでも言うのかよ? おいおい、冗談だろ? ……この最終試験の目的は何だ? ナルシィは何をためしている?」

 ツッチーは何も答えなかった。だまって由香里とナルシィに視線を戻した。


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