第82話

「行ってくるね、アズキ」

 由香里はかわいいウサギをなでなでした。

「待ってるぜ、由香里」

 いつものように、由香里が稽古けいこに出かけるのを見送って、アズキはのんびり二度寝にどねをしようと寝そべった。途端とたん、ツッチーに鼻で小突こづかれ起こされた。

「何だよ? ツッチー、邪魔じゃますんなよ。おまえ今日は由香里について行かねーのかよ? って、まさか⁉ 由香里か? また発作か?」

 アズキが、ピョン! と飛び起きる。

「いいえ」

 ツッチーが首を振る。

「じゃあ何だよ?」

 寝そべるアズキ。いとしい由香里を寝て待つウサギ。

「ナルシィが由香里の最終試験をおこないます」

「どんな試験だよ?」

「見ればわかります」

 大型犬ツッチーは、っちゃなウサギをヒョイと口にくわえると走り出した。あっと言うに森の中。高台たかだいに着くと、ツッチーはウサギをポトリと地面に落とした。

「あそこです」

「あ?」

 アズキが岩の上に飛び乗って下を見ると、ナルシィと由香里が向かい合っていた。その横に武器がずらりと並んでいる。

 ナルシィが言った。

「わしを殺せ。さすれば、この本から出られる」


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