第67話

 意識をなくした由香里の体は生きるための本能で、アズキからツガイモの精をしぼり取ってゆく……。

「……由、香里っ」

 アズキはもう何回目になるかわからない精を由香里の中にはなった。由香里の体から力が抜けてゆき……呼吸が落ち着くのを待って……アズキはそっと体を離した。由香里の体をいて布団をかける。あとはゆっくり休めば回復するはずだ。すぐに意識が戻るといいんだが……。

 コン、コン。

 小さくドアをたたく音がして、ドアの向こうからツッチーの声がした。

「……由香里の容態ようだいはどうですか?」

「落ち着いた。今は眠っている。入ってきてもいいぜ」

 ドアが開き、大型犬を押しのけて大男のナルシィが入ってきた。

「てめえは入ってくるな」

 アズキは立ち上がって大男をにらみつけた。

「アズキ、おまえは服を着ろ」

「あ……」

 人のアズキはっ裸。ツッチーが目をそらす。ナルシィは由香里の寝顔を心配そうにのぞき込んだ。

「やい、ナルシィ。おまえのせいだぞ」

 服を着たアズキがナルシィに指を突きつけた。

「俺を人の姿にしていれば、毎晩由香里を抱いていたんだ。そうすれば由香里は発作を起こすことはなかったんだ」

「ウサギでいろ」

 ナルシィがそう言ったとたん、アズキはウサギの姿になった。

「何しやがるんだ⁉ ナルシィてめえ! 俺を人の姿に戻しやがれ!」

 怒って足をダンダンらすウサギの頭を、ツッチーが前足で押さえつけた。

「静かにして下さい。病人が寝ているのですよ」

 由香里はスヤスヤと寝息をたてている。

「うむ。由香里は自分で体調を管理できるようにならねばならぬ」

 ナルシィは声の音量を下げた。

「由香里は自分で発作の前兆ぜんちょうに気づき、どの段階だんかいでツガイモの精を補充ほじゅうすればよいのか、体内のツガイモの精が今どのくらい残っているのか、あとどのぐらいつのかを把握はあくできるようにならなければならぬのだ。うむ」

「それは……そうかもしれねーけど……って、ツッチー、てめえ、いつまで俺の上に足を乗っけてるつもりだ? そのでっけー前足をどけやがれ!」

 アズキはツッチーにたり。腹立はらだまぎれに頭突ずつきをくらわせた。大型犬ツッチーは、ウサギの頭突きにびくともしない。

「わしの本の中で、いちゃつくのはゆるさぬ」

 そう言うとナルシィは部屋を出て行った。

「おいおい、それが本音ほんねかよ⁉ ふざけんな!」

 アズキは足を踏み鳴らし、再びツッチーに頭を押さえつけられたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る