第66話

 ナルシィの本の中には、はっきりとした四季があった。秋には葉が赤や黄に色を変え、冬になると大地は雪におおわれた。

 由香里は何事なにごともなく冬を何度もえたので、本の中では大丈夫なのだと思っていた。このごろ息が苦しいのも、体のあちこちが痛いのも、獣との戦いでった傷や疲労ひろうのせいだと思っていた。だから、血を吐くまで、骨や筋肉がギチギチと悲鳴をあげるまで、アズキが人の姿になっておおいかぶさってくるまで、由香里は自分が発作を起こしていることに気付かなかった。

 アズキのあらい息づかい……。本の中に入ってさえも、私の体はツガイモの精を受けなければ生きられないのか……。それとも修業がりないのか……。ナルシィとツッチーがこの場にいないことを祈りながら、由香里は意識を手放した……。

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