第64話

 由香里は色々いろいろやらかした。

 食べると危険な野草やキノコを料理してしまったり……それ以来、由香里の作った料理は必ずツッチーが味見あじみという名の毒見どくみをすることになった。アズキとツッチーを包帯ほうたいでグルグル巻きのミイラにしてしまったり……それからしばらくの間、アズキは由香里が包帯を手にしただけで恐怖を感じた。

 間違まちが勘違かんちがい計算違い、紆余曲折うよきょくせつ、行きつ戻りつ、のろのろとろい鈍臭どんくさい、成長低迷せいちょうていめい低空飛行ていくうひこうの由香里であったが、ゆっくりとでもしっかりと身につけた一割いちわりを積み重ね基本を押さえると、そこからは徐々じょじょ加速かそくしていった。

 ナルシィは由香里に根気よく、小刀の使い方を教え、弓矢の使い方、狩りを教え、武術の基本を、型を教え……そこから徐々に格闘術や武器術へと広げていった。

 由香里は、戦うか逃げるか、の二者択一にしゃたくいつせまられると、迷わず後者をえらんだ。けもの遭遇そうぐうするたびに一目散いちもくさんに逃げ出した。山の中をジグザグにけ回り、木に駆けのぼり、草木のかげに身を隠し、あしあししのる。由香里はナルシィが舌を巻くほど逃げ足が速くなった。

「戦わずして逃げるな! 攻撃は最大の防御ぼうぎょだ!」

 ナルシィが木の上に向かって叫ぶと、枝葉えだはに隠れて姿の見えない由香里の声が返ってきた。

「逃げるが勝ち、です」

「うぬぅ。ならば標的ひょうてきを変えるか。うぬ。ここに、うまそうなウサギがいる」

 ナルシィは、木の下で草をはむはむしていたアズキをつかむと、ポイッ、と放り投げた。草むらから現れたキツネがアズキをくわえて走り去る。木の上から怒声どせいがしたかと思うと、由香里か全速力でキツネを追いかけていった。

「うむ。しばらくこれでいくか」

 してやったりとニヤリ顔のナルシィに、ツッチーはあきれ顔。

 かくして、由香里対獣たちによるアズキ争奪戦そうだつせんが始まった。

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