第63話

 数日後。嬉々ききとして由香里に教えるナルシィの姿があった。

 得意満面とくいまんめんに魚をり上げるナルシィ。

「わぁー、すごーい」

 由香里は感嘆かんたんの声を上げた。ナルシィにとっては日常のごくごく当たり前のことが、由香里には全く知らない事ばかり。初めての連続だった。

「けっ、ナルシィのやつ、調子に乗りやがって」

 アズキは草をガジガジんだ。

「いいとししたオッサンが、若いむすめにデレデレしてんじゃねーよ」

 アズキのとなりに座ったツッチーが、おだやかにほほんだ。

「由香里は教えがいがあるのでしょう。ひとつ教えるたびに、やってみせるたびに、尊敬そんけい眼差まなざしを向けられて、ナルシィはうれしくてたまらないのでしょう」

「奴は弟子でしに尊敬されてなかったのか?」

「……されてはいましたが、由香里のような者はいませんでした。ナルシィが今まで教えてきた弟子はみな、天才でした。いちを聞いてじゅうを知り、強さを求めてしのぎをけずる者ばかりでしたから。師であるナルシィを殺して、最強の座を手に入れようとする者も多かったのです」

「おいおい、弟子ってのは師匠ししょうを殺すものなのかよ。……ナルシィは、弟子にだまされ裏切うらぎられはめめられて、最期さいごは毒をあおったって話は?」

「本当です。弟子の悪行あくぎょうなげき、最悪の弟子を育ててしまった事をい、己を責めさいなんで自害じがいしました」

「けっ、真面目まじめかよ。悪いのは弟子だろ。師のナルシィは悪くない。いい奴だったと伝えられてるぜ」

「そうですか」

 ツッチーは嬉しそうにほほ笑んだ。


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