第61話

 翌朝。日の出とともに起こされた由香里は目をショボショボ。

「おはよ〜、アズキ。早いねぇ。ツッチーもおはよ〜」

 朝が弱い由香里はムニャムニャとアズキを抱きしめなでなでした。ついでにツッチーもな〜でなで。

 ツッチーのあとについてウトウト眠い足取あしどりで由香里が階段を下りてゆくと、ナルシィはすでに玄関げんかんで待っていた。

「あ、ナルシィ。おはようございます」

 由香里は寝ぼけまなこ一礼いちれいした。その足もとで、アズキも、うっす、とご挨拶あいさつ

「うむ、おはよう。朝飯あさめしは川で焼き魚だ。由香里が先頭に立って川まで来るのだ。わしは一足先ひとあしさきに行って待っている」

 ナルシィは、あっと言う間にいなくなった。

 数分後、由香里は道に迷っていた。

「道は迷うものでしょ」

 由香里は当たり前のように言う。

「いやいや、迷わないための道だろ」

 アズキは不安になってきた。由香里はガサガサ草をかき分けて、つまづいたりころんだりしながら道を進んでゆく。その後をアズキとツッチーがハラハラしながらついてゆく。

「そうなの? 私は地図を見ても迷うけど? 道が多いと選択肢も増えるしね。まぁでも、歩いていればそのうち着くでしょ」

 迷いれている由香里は動じない。曲がりくねった細道をずんずん進み、どんどん道をれてゆく……。山小屋から川までの短い道のりを、転んだり斜面しゃめんすべり落ちたりしながら、ガサゴソごろごろ翻筋斗打もんどりうってすってんころりん、さわがしく迷走めいそうしてゆく。

 数時間後。このままでは夜になっても川に着かないかもしれない……。不安でいっぱいになったツッチーが先頭に立った。

「由香里、こちらです。川まで案内しますので、私の後についてきて下さい」

 やっとこさっとこ川に辿たどり着いた時にはとうに昼を過ぎていた。


 

 

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