第60話

「どうぞ、こちらへ」

 山小屋へ入ると、ツッチーが由香里とアズキを風呂場へ案内した。

 由香里の体はあちこち打撲だぼくすり傷だらけになっていた。山道やまみちころびまくったせいだ。湯船ゆぶねかると薬湯やくとうがしみた。

 風呂からあがってさっぱりして戻ってくると、ばんご飯が待っていた。なべがグツグツおいしそうなにおいをたてている。由香里とアズキのお腹が鳴った。

「いだだきます」

 ガツガツたらふく食べた。

「ごちそうさまでした」

 食後のお茶をすすりながら、由香里はこれまでの話しをした。所々ところどころアズキが補足ほそくする。

「ふぅむ。全てが石になる。うむぅ。あれがはじまったとはな」

 あぐらをかき腕を組んで考え込むナルシィの真向まむかいで、由香里は眠くなってきた……。正座したままふねをこぎかけた由香里に、ツッチーが助け舟。

「女神はもうお休み下さい」

「あ、うん。ありがとう」

「どうぞ、こちらへ。お部屋は2階です」

「おやすみなさい、ナルシィ」

「うむ。おやすみ」

 由香里はペコリと一礼いちれいすると、ツッチーの後についてヨロヨロと階段を登っていった。そのあとをウサギがピョンピョンついてゆく。

 ひとりになったナルシィは、ぶすりとつぶやいた。

「ナルシィ。変な呼び名だ」

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