第54話

「気にしなくていいよ。たまたま由香里が触れたのと、砂になるタイミングが重なっただけだよ。由香里が触ったから砂になったわけではないよ」

 チャシュは由香里の足に体をこすりつけた。

 アズキは由香里の腕の中からピョンと床に飛び下りると、砂のにおいをいだ。……ネズミのにおいも本のにおいも木のにおいもしない。それはただの砂だった。

 石は戻る。けれど砂になったら元には戻らない。石化はけても砂化は解けない。砂になることは死を意味する。

「アズキ、心配ないよ。過去の石化現象で魔女と女神は石にならなかった。ツガイモの君も石にはならないよ」

 チャシュはアズキに体をこすりつけた。

「……チャシュ、おまえはその中に入ってないだろ」

 アズキの中で不安が風船ふうせんのようにふくらんだ。チャシュは笑った。

ぼくも石にはならないよ。僕が石になったら、君はさびしくて泣いちゃうだろ。君を泣かせるようなことはしないよ」

 チャシュはアズキの顔をペロペロめた。

「はあ〜? チャシュ、てめー、なめんじゃねーよ!」

 笑う猫を怒ったウサギが追いかける。図書館ではお静かに……しなくてもいいのかな? 由香里は首をかしげた。 

「男どもはほっといて、行きましょ。由香里の本を探さなきゃ」

 アイリスは由香里の腕をとると、スタスタと歩き出した。

「チャシュはアズキが帰ってきてうれしいのよ。親友なのよね、あの2人。あんな楽しそうなチャシュ……。ちょっとアズキにいちゃうわ」

「……やいちゃう?」

「チャシュは私の恋人だもん」

 おどろく由香里。口ポカン。

「あら、気づいてなかったの? んー、そんなに驚く?」

「……私が猫のチャシュをなでたら、妬いちゃう?」

 アイリスは笑って手をった。

「妬かないわよ。由香里は猫が好きなだけで、チャシュはなでられるのか好きなだけだもの。そこに恋愛感情がはさまってないから問題ないわ」

 視界のすみで猫とウサギがプロレスごっこをしている。

「あそこにも恋愛は挟まってないと思うけど」

 首を傾げる由香里に、アイリスは懐疑的かいぎてき

「そうねがうわ」

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