第53話

 ……石のにおいかする。

 アズキは鼻をヒクヒクさせた。由香里は物珍ものめずらしそうに館の中を見回している。

 高い天井、梯子はしごを使わなければ届かない大きな本棚ほんだなならぶ。本がギュウギュウにまったたなもあればスカスカの棚、中には砂がもった棚もある。

「なんか西洋の古い歴史ある図書館みたい」

 由香里は小声で言った。図書館ではお静かに。

「由香里の知ってる図書館とは本の種類が違うんだ。本が読む者を選ぶ。……チャシュ、本棚は木製もくせいだったよな?」

 アズキは普通の声で由香里に答え、後半はいぶかしげに声をひそめた。

「あっ、ネズミ……の置物おきもの?」

 由香里が指をさして……首をかしげた。本と本の隙間すきまからあたりをうかがうように顔を出したネズミは微動びどうだにしない。

「石になったんだよ。ネズミも本も棚もね」

 チャシュがふわりとアイリスの肩から床におりてきた。

 由香里はおそおそる手をばし、ネズミにれた。

「……あ、本当に石……」

 次の瞬間、石のネズミはサラサラと砂になってくずれ落ちた……。本の隙間に三角の小さな砂の山ができた。由香里が一步後ずさる。本棚が崩れだした。サラサラと本をのみ込んで、あっと言うに本棚ひとつ、砂となって崩れ落ちた。

 茫然ぼうぜんと立ちすくむ由香里。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る