第52話

 由香里はベッドの上て目を覚ました。

 ……あれ? 風呂場にいたはずなのに……?

「え?」

 由香里はベッドの上に起き上がり、ポカンと見惚みとれた。ベッドの横に綺麗きれいな人が立っていた。

 茶髪茶眼、青灰色の長いローブを身にまとっている。歳はアズキと同じぐらいか……って、この人、誰? 由香里は本人に聞いてみた。

「……えっと、あの……、どなたですか? どちら様でしょうか?」

 優しげな茶色い目が丸くなり、ふっとほほんだ。

「チャシュだよ。人の姿では初めましてだね」

 由香里が、目を丸くした。

「チャ……チャシュなんだ」

 ということは、男の人か。由香里はチャシュの顔をまじまじと見て思った。チャシュは女装が似合にあいそう。

「あ、私を風呂から運んでくれたのはチャシュ? ありがとう」

「どういたしまして」

 ふわりとほほ笑むチャシュの足に、ウサギが頭突ずつきをくらわせた。

「やい、チャシュ。由香里に色目いろめを使ってんじゃねーよ」

 チャシュは笑いながら、ウサギをヒョイと抱き上げた。

「恋するウサギは嫉妬しっと深いね」

 チャシュはウサギの長耳に口をよせてささやいた。

「君がウサギの姿でいるのは、由香里に抱っこしてなでなでしてほしいからかい?」

 ウサギの耳が赤くなる。

「恋するウサギはかわいいね」

「なっ、うっせー! おろせ!」

 腕の中でジタバタあばれるウサギを、チャシュは笑いながら由香里にわたした。由香里はウサギを受け取り抱っこしてなでなでした。

 アズキはチャシュに何か文句を言ってやろうと思ったが、由香里の胸のやわらかさに、うっとりと目を細めた。チャシュは一瞬で猫の姿になると、アイリスの肩にふわりと飛び乗った。

「んー、よく眠れたみたいね」

 アイリスが由香里の顔を覗き込む。

「顔色もいいわ。それじゃあ、本のやかたへ行きましょ」

 そう言ってアイリスがかべれると、ドアが現れた。

「え? 本の、やかた? 私、この部屋から出ていいの?」

「大丈夫よ。このドアはやかた直通ちょくつうなの。由香里、早く。ドアが消えちゃうわ」

 アイリスにかされて、由香里はおずおずとドアの中、館の中へと足をみ入れた。


 

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