第50話

 バン! と勢いよくドアがめられ、風呂場にじ込められたアズキとチャシュは顔を見合みあわせた。

なんで俺まで? あ、そうか。チャシュがのぞかないように見張みはってろってことか。なるほど納得なっとく合点がってん承知之助しょうちのすけだぜぇ!」

 うなずくウサギ。首をる猫。

「逆だよ。ぼくに君の相手をしろってことだよ」

 そう言うやいなや、チャシュはアズキをの中へ放り込んだ。

 ボチャン! 

「なっ⁉ チャシュ……てめぇ!」

 湯けむりの中、バチャバチャと派手はでな水しぶきをあげてもがくウサギ。

 チャシュは木製もくせい湯船ゆぶねふちにゆったりと腰をおろしてたかみの見物けんぶつ

「アイリスは由香里を気に入ってるよ。第一印象から感じが良かったって。由香里をこの世界に召喚しょうかんしたアイリスを一言ひとことめない。真面目まじめなのに面白おもしろい。ビビりなのに大胆だいたん

「チャシュ……助け……ゲホッ」

「由香里とは親友になれそうだって喜んでいるよ。昨日きのうのおしゃべりがとても楽しかったらしい」

「チャシュ! ゲホッ、てめー! ガホッ、助け……」

 アズキは湯の中、しずみ。ゲホガホ助けを求めながらチャシュをにらみつけた。チャシュは獲物えものをいたぶる猫の目でアズキを見てっすらと笑みを浮かべた。

「ウサギの君は泳げないんだね」

 ガフガホと湯の中でどくづきながら、アズキはなんとか自力じりきでチャシュのもとまで泳ぎ着いた。

「……死ぬかと思った」

 床の上にころがって、息もえにつぶやくウサギ。

大袈裟おおげさだな、君は」

 猫が笑いながら、ずぶれのウサギにタオルをかけた。

「……なぁ、チャシュ。マジな話。このままだと由香里は、夢におびえて眠れない。なんかいい方法ねえか?」

「うーん、そうだね。それなんだけど」

「ウサギの服を作るわよ!」

 バーン! と勢いよくドアが開いて、アイリスが入って来たかと思うとアズキをつかんで出て行った。……風呂場にり残されたチャシュは目をパチクリ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る