第46話

 パン! 意識が戻った。体がビクン! 目がめた。

 部屋の中は月明つきあかり。草木も眠る丑三うしみつどき。由香里はクリーム色のTシャツを着て、ベッドに横になっていた。アズキの寝息ねいきが耳をくすぐる。

 裸のアズキの腕の中、由香里はまんじりともせずに朝をむかえた。……全く休めなかった。

 窓のない部屋の中、月が朝日に変わるころ、由香里はそっと起き出して風呂に入った。……眠かった。

 でも眠ったらまた夢を見る。今回は運良く途中で目が覚めたけど、次は覚めないかもしれない。あのまま夢を見ていたら、黒いもやが血霧ちぎりになって……。赤い続きを見てはいけない。

 お風呂のお湯は熱かった。けれど由香里は寒かった。由香里は熱い湯の中で、体をちぢめてふるえていた。

 トプン!

 湯がれて、由香里は心臓が飛び出るほどおどろいた。

「俺だよ。そんなに驚くなよ」

 人のアズキがとなりに座って湯にかる。由香里はホッと息をもらした。

「宮殿に引っ張られたな」

「えっ、なんで……」

 思わず顔を上げると、アズキと目が合った。緑色の目が心配そうにのぞき込んでくる。由香里は目をらして、揺れる湯面ゆめんを見つめた。

「由香里の服から宮殿のにおいがした」

「そう……」

 由香里がいだTシャツのにおいをぐ、人のアズキを想像して……由香里は引いた。はたから見たら変態へんたいだ。

「宮殿で何を見たんだ?」

「何も。ただ、白いもやが黒くなっただけ。そこで目が覚めた」

 アズキは手をばすと、震える由香里を抱きしめた。

「由香里、怖い時は俺を呼べ。危ない時は心の中で俺を呼ぶんだ。夢の中でも宮殿でも、必ず助けに行く」

 由香里はアズキの胸に顔をうずめて、答えなかった。助けは呼ばない。夢も宮殿もヤバすぎる。アズキには安全な所にいてほしい。

「俺が由香里を守るから。由香里には俺がついている。いつもそばにいるよ」

 アズキの言葉がぬくもりが、由香里の心にじんわりしみる……。

 今眠ったら夢の中、アズキを呼んでしまいそうで……それはダメ。眠らないけど……少しだけ……。由香里は目を閉じた。



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