第43話

 その後、アイリスは由香里とペチャクチャおしゃべりに花を咲かせた。

「まさか、目が覚めたらそこは異世界だった、なんて。トンネル……は雪国か。穴に落ちたとか鏡とか死んだとかならわかるけど」

 由香里が、あーぁ、と天を仰ぐ。

「あー、そっか。死んだのかも。寝てる間に突然死したのかなぁ」

「んー、それはわからないけど。由香里の世界では穴に落ちたら異世界なの? 鏡?」

「あ、いや、そうじゃないけど、そういう不思議の国の物語があるから。衣装箪笥いしょうだんすとか絵とか」

「ん、いくつもあるの? 不思議の国、異世界の入口が?」

「うん、たくさんあるよ。ドアを開けたら、水に落ちたら、霧の中、森、路地裏ろじうら、坂、鳥居とりい、階段、エレベーター、十字路じゅうじろつじ抽斗ひきだし、車、あ、抽斗と車はタイムトラベルか」

「そんなに⁉」

 アイリスが目を丸くする。

「由香里の世界は不思議がいっぱいなのね! んー、その異世界の入口、興味あるわ。もっと詳しく教えて。流行はやりりの服や料理もね!」

 アイリスは目をかがやかせ身をりだして、由香里を質問攻しつもんぜめにした。そのいきおいにされ身をらせながらも、質問に答える由香里。それが夕方まで続いた。チャシュが止めなければ一晩中ひとばんじゅうでも続いたかもしれない。

「アイリス、もう日がれるよ。続きは明日にしよう」

 チャシュが、アイリスの肩に飛び乗って前足でアイリスの口をふさいだ。

「んー」

 アイリスが不満気ふまんげに口をとがらせる。

「由香里を休ませてあげないと。ぼくたちは戻ってキノコの話しをしよう」

「ん、それはそれで興味あるわ。んー、わかったわ。じゃあまた明日ね、由香里。バーイ」

 アイリスは肩の上にチャシュを乗せ、楽しそうにドアの向こうへ消えた。キノコ料理の話で盛り上がるらしい。

 由香里の世界では猫がキノコ料理を食べるなんて聞いたことないけど、この異世界モルモフでは普通に食べるのかもしれない。なんせウサギがストローでスープを飲む世界だ。猫がキノコどんをレンゲですくって食べるぐらいはするのかも。

 由香里はベッドに座って欠伸あくびみ殺した。ちょっと疲れた。

「やっと静かになったな」

 ウサギが大きくびをする。アズキはベッドの上に前足をそろえて座ると、由香里を見上げた。

「由香里、風呂ふろにするか? めしにするか? それともおれ?」

 アズキの目が期待きたいちている。

「ごはん、お風呂、睡眠すいみん。アズキはしばら遠慮えんりょしとくわ」

「そんなぁ〜」

 アズキが枕の上にした。

「由香里がれない。よよよよよー」

 泣き真似まねをするウサギのお腹がグーと鳴った。

「ご飯にしようね」

 由香里は笑いながらウサギを抱き上げた。


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