第42話

 「ハーイ、由香里」

 明るい声がってきて、目を開けるとアイリスが由香里の顔をのぞき込んでいた。

 アイリスの青い目にしば見惚みとれる。由香里のまわりには茶色い目しかいなかった。青や緑の目をなまで見たことがなかった。天然の金髪も。とっても綺麗きれい

「由香里? 起きてる? 寝惚ねぼけてる?」

 アイリスが目の前でヒラヒラと手を振った。

「あ、うん。ちょっと。半分寝てた」

 床に座ったまま、いつの間にかウトウトしてたらしい。由香里のひざの上では、アズキとチャシュが鼻チューしている。それともマジチュー?

「由香里、ごめんなさい!」

 いきなりあやまられた由香里は、キョトンとアイリスを見上げた。何の事かわからない。

「昨日はちょっとキツく言いすぎたわ」

「え……あぁ、別にあれは……。謝らないで。おかげで吹っ切れたから」

 由香里は恥ずかしそうにほほ笑んだ。あら、かわいい。アイリスはホッとして由香里の隣に座った。

「あの……それで、その……」

 由香里は人にものを聞いたりたのんだりする事が苦手だ。

「ん、なぁに? 遠慮えんりょしないで、言って言って」

 アイリスはフレンドリー。グイグイくる。

「えっと……その、あの、武術を習いたいんだけど……何かないかなと思って……」

「んー、そうねぇ。何かあるとは思うけど。んー、武術?」

「うん。護身術ごしんじゅつみたいなの。裸男はだかおとこやオオカミ男やヘビ男から身を守れるように」

「ん、そういう事ね。んー、そうよねー。あんな状況じょうきょうで興奮したモノを見たらトラウマになってもおかしくないわね」

「うん。そうならないように、記憶を上書うわがきすることにした。あれはキノコだったって「んー、キノコ?」

「うん。キノコ。男の人の足の間からキノコが生えていたってことにした。そのキノコをもぎ取って切りきざんでたたつぶして戦うすべを身につけたい」

 アズキとチャシュは震え上がった。

 アイリスは腹をかかえて大笑い。

「……アズキのキノコは大丈夫なのかい?」

 チャシュがおそおそる聞いた。

「大丈夫。まだ見てないから」

 由香里が答える。

「首から下は見ないようにしてる」

「……お披露目ひろめ当分とうぶんあいだ延期えんきすることにした」

 アズキはそう言って体をちぢこませた。

賢明けんめいだね」

 チャシュはそう言って、アズキの頭をペロペロなめた。猫がウサギの毛づくろい。

 アイリスは笑い涙をふきながら言った。

 「わかったわ。ユニークで勇敢ゆうかんな由香里にあいそうな武術の本を探してみましょうね」

「ありがとう」








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