第40話

 「由香里、風呂長すぎ。のぼせてないか? 大丈夫か?」

 アズキが心配そうに、由香里の顔をのぞき込む。

 由香里はちょっと後退あとずさり。人のアズキの目はみどり。吸い込まれそうな色をしているな、と由香里は思った。

「そんな警戒けいかいすんなよ。俺たちはこの五ヶ月間毎晩、体を重ねてきたんだぜ」

「五ヶ月? えっ、そんなにたったっけ?」

「発作を起こして意識不明二ヶ月、人形みたいに眠って三ヶ月、合わせて五ヶ月」

「え、そんなに……そうなんだ。そっか5ヶ月も。……アズキはツガイモだから、ツガイモは女神を抱くのが仕事だけど。でも、私を抱くのはつらくない?」

「は?」

 由香里は手を伸ばしてアズキの髪に触れた。栗色くりいろくせっ毛は、ウサギの毛と同じ手触りだった。ふわふわでやわらかい。

「そんなに毎晩抱かなくていいよ。もっと回数減らしても、私の体は大丈夫だと思う。息が苦しくなったら、そう言うから」

 アズキはしば絶句ぜっくして、それから笑いだした。

「もっと抱いて! って、せがまれた事は数え切れないけどな。回数を減らして、なんて言われたのは初めてだ」

 由香里は心配そうな顔をした。

「体は大丈夫なの? 激務げきむなんでしょ? 心臓とか血圧とかヤバくない? ツガイモは過労死多いの? 女神の抱きすぎか原因で亡くなる人が多かったりするの?」

「ないないない。そんなんで死ぬ奴なんか、まずいねーよ。その前に精がきて宮殿から出されるさ。俺は常に満タンだけどな」

「過労したら即解雇そくかいこ? ブラック? 入れかわりの激しい仕事なの?」

「まぁ、そうだな」

 アズキは由香里に体をよせた。風呂上がりの匂いがたまらねぇ……。緑色の目が濃くなった。

「……アズキ?」

 後退る由香里の背中が壁に当たった。

「これは仕事じゃねーよ」

「じゃないの? え、えっとー、その……アズキ、とりあえず、今すぐウサギに戻って、ね」

 アズキがあやしくほほ笑んだ。

「ウサギの姿はこの後で。今は抱かせて」

 そう言って、アズキは由香里にキスをした。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る