第3章 黒いもや

第39話

 ゆっくりと意識が戻ってきて……由香里はぼんやり目を開けた。

 ほほにやわらかなウサギの毛がれる。由香里の横で、オレンジ色のウサギがまくらに頭を乗せてスヤスヤと寝息をたてていた。……かわいい。

 由香里はアズキを起こさないようにそっと、ゆっくりこっそりい出した。ベッドからおりて、うーん、と大きく伸びをする。なんかスッキリ、いい目覚め。窓のない部屋のかりは夕日っぽい。

 部屋にひとつしかないドアを開けると、あたたかな湿しめった空気に包まれた。湯船ゆぶねにはお湯がなみなみ。いい温度。Tシャツ脱いで湯船にトプンと足を入れる。そのまま腰をおろして全身つかる。

 あぁ気持ちいい。ゆらめく湯面ゆめんに明かりがゆれる。窓のない風呂場ふろばの壁や天井に、明かりの波がユラユラゆれる。

 ゆらゆらたぷんと湯にかり、由香里はたゆたゆ考える。

 白い夢、壁の文字、血の女神、灰色の空、石化……。さてはてこれからどうしよう? 食っちゃ寝たぷたぷ風呂に浸かってふやけていたら、むな。異世界から来た私には、この世界で生きてゆくすべがない。足下あしもとが底なし沼、みたいな怖さがある……。まずはそこから何とかしないと。自分もアズキも守らなきゃ。

 風呂からあがるとドアの外、人の姿をしたアズキが待っていた。




 

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