第35話

 祖父母は、反抗期はんこうきでグチャグチャの由香里を受け入れてくれた。

 由香里がいい子でなくても、悪い子で毒を吐いてもわめいても、祖父母はびくともしなかった。

「かわいい由香里に何を言われても、かわいいからなぁ」

 そう言って祖父は目を細めた。

「あらまぁ、そうねぇ。そうかもしれないわねぇ」

 そう言って祖母はほほ笑んだ。

 祖父母は由香里を丸ごと愛してくれた。

 シマとの出会いは保護猫カフェ。由香里は中学一年生、祖父母に引き取られて間もないころだった。

 シマは、長い野良生活、人嫌い、気難しい猫だった。保護猫カフェのスタッフにも祖父母にも、シャーシャーうなって猫パンチ! そんなシマと由香里は一目ひとめで互いを気に入った。祖父母はすぐにシマを引き取ってくれた。

 シマは由香里にしかなつかなかった。

 シマはいつも由香里のそばにいて、のとを鳴らして体をスリつけた。本やノートの上に座り、ペンや消しゴムを机から落として邪魔をして、由香里の服を毛だらけにして、ケンカして、夜は一緒に布団に入って寝た。

 由香里が二十歳のある朝、目覚めると、枕もとでシマが冷たくなっていた。 

「大好きな由香里の横で眠りながらったんだ。大往生だいおうじょうだ。シマは幸せな猫だよ」

 そう言われたけれど、由香里のなぐさめにはならなかった。

 そして祖父母もくなった。

「ちょっと風邪かぜをひいただけ」

 そう言って笑っていたのに、あっと言う間に二人仲良く逝ってしまった。

 シマも祖父母も由香里を置いて逝ってしまった。


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