第34話

 由香里が小学六年生の時、父の浮気が発覚はっかくした。

 おなかの大きな女の人が、家のチャイムをピンポンらし、母とバトルをひろげた。

 母は双子をれて家を出て行き、帰宅した父は由香里から話しを聞くやいなや、女の人の所へすっ飛んで行った。

 由香里はひとりポツンと家の中、取り残されて夜を過ごした……。いい子にしてたのに、捨てられた。

 両親はいつもいそがしい。他の事で頭がいっぱい。由香里の事は後回あとまわし。由香里にかまっているヒマはない。愛されるのはワガママな天使。いい子は親に愛されない……。由香里の中で寂しさが、怒りに変わる。

 両親は即離婚。母は双子の手を引いて実家に戻り、父はお腹の大きな女の人とデキちゃった再婚をした。由香里は父にも母にもついて行かなかった。いい子の中には毒がある。

「お父さんなんかいらない。お姉ちゃんもいい子もやめる。もうやだ。お姉ちゃんなんだから赤ちゃんの面倒めんどうをみなさい、お姉ちゃんなんだから新しいお母さんの言うことを聞きなさい、手伝いなさい、とか言うんでしょ。女の人が来てピンポン鳴らすんでしょ。お父さんなんか何もしないでエラそうに威張いばってばっかり。お父さんなんか、家にいたって役に立たない」

「なっ、何て事を言うんだ! それはちかうぞ!」

 父は怒って大声で言い訳し声をあららげたが、由香里は一歩も引かなかった。怒鳴どなり返してたたつぶした。

「妹なんかいらない。お姉ちゃんもやめる。いい子もやめる。もうヤダ。双子がいい子になればいい。双子の姉の方が妹の面倒をみればいい。ワガママでウソつきで性格悪い。かわいくない。天使なんて大キライ」

 双子は驚き恐れおののいて、母の背中にかくれた。

「お母さんなんかいらない。お姉ちゃんもいい子もやめる。お母さんは文句もんくばっかり。いつも人の悪口言って、人のせいにして、暗くてズルい。私にばっかりやらせる。お姉ちゃんお願いね、ありがとう、助かるわ。そう言えば私が何でもやると思ってるんでしょ。お母さんは気持ち悪い」

 母は目に涙を浮かべてグダグダ言ったが、由香里は言い返して叩き潰した。

 由香里は祖父母に引き取られ、それっきり。親子姉妹のえんが切れた。

 別に誰が悪かったというわけではない、と由香里は思う。ただたんに、うまわなかっただけのこと。血のつながりも共に過ごした年月も関係なく、合わない者は合わない、と由香里は思っている。

「もし仕事をしていなかったら、育児ノイローゼになっていたと思う」

 母がそう言っているのを聞いたことがある。だろうな、と由香里も思う。

 由香里もたぶんそうなる。結婚して子供を持ったら、母のようになると思う。だから由香里は結婚しない。子供も持たない。両親はデキちゃった婚だったから、ヤらない。恋愛もしない。一生ひとりで生きてゆく。由香里はそう決めていた。





 

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