第32話

 チャシュが話をえた。

「石化現象は、その二人目の女神の呪いなのかよ?」

 アズキが首をひねる。

「そんなわけないじゃない」

 アイリスが即否定そくひてい

「調査の結果、彼女を召喚する前から世界各地で石化がおきていたのよ」

「石化と女神の死。謎だな。……宮殿の壁なんだけどな。なんか気になるんだよな」

 「ツガイモの君が気になる事とは?」

 チャシュがアズキのとなりに腰を下ろした。

「あの頑丈がんじょうな壁が、由香里が体当たりしたぐらいでくずれるか? そもそも、女神が外に出たいと思ったら、ドアが現れるはずなんだ。それが、何らかの異常でドアが現れなかった。壁が自ら崩れて、由香里を外へ逃したんだとしたら?」

「宮殿が、ここにいたら由香里が危険と判断したってことかい?」

 チャシュが首をかしげる。

「たぶんな。ツガイモに襲われる危険じゃなくて、由香里が夢でみたヤツだろう。宮殿は女神を守る物だからな」

 由香里は人形のようにベッドに横たわったまま、我関われかんせずと無反応。

 アイリスが息を吸い込んだ。

「んー、さすがに腹が立ってきたわ。由香里は自分をかわいそうだと思ってる? 異世界にさらわれて女神にされた、悲劇ひげきのヒロインだとでも思っているのかしら? 自分をあわれんで自己陶酔じことうすいひたるのはやめてよね。逃げないでよ。いい加減かげんに現実を受け入れて、頑張って。由香里はモルモフの女神なのよ」

 反応なし。

「由香里、君はアズキを守りたいのかい?」

 チャシュが静かに言った。

「君が死んだらアズキも死ぬよ。アズキを残して自分だけ楽になろうとするのは卑怯ひきょうだよ。残されたアズキの心が悲しみでこわれてしまうのがわかってて、由香里は死を選ぶのかい? それはとても残酷ざんこくだよ。君の死は、アズキを殺す」

「うるせーよ。お前ら部屋から出てけ!」 

 アズキは怒って足をみ鳴らしたが、やわらかなベッドの上ではパフパフと気のけた音しかしなかった。

「……どのくらい?」

 かすかな声がした。

 由香里の目は天井を向いたまま、そのくちびるがかすかに動いた。

「……どのくらい頑張ればいい? ……いつまで頑張ればいい? 死ぬまで? 壊れるまで?」

 アイリスが何か言おうとしたのを、チャシュが止めた。

「……ずっと、頑張ってきた。けど……、いつも、うまくいかない……」

 つんつんとアズキが由香里のほほをつっついた。

「話してよ、由香里」

 由香里はため息をついて話しはじめた……。





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