第30話

 「キルケが殺されただと⁉ 残った弟子の中に後継者こうけいしゃはいないのか?」

「……いない」

「どうするんだ? 女神を召喚しなければ、世界がほろびるのだぞ!」

「魔女の杖も、魔女の本も、消えたそうだ」

「探せ! 魔女を探せ! 魔女は杖と本を持っている!」

 大騒おおさわぎになった。

われこそがモルモフの魔女である」

 そう名乗なのりをあげる者が続々ぞくぞくと現れた。手に手にニセの杖と本を持って。彼女たちは次々つぎつぎと女神召喚を試みて、次々と化け物を呼び出した。

 いにしえの魔物とか、封印されてたヤバいやつとか、異世界の怪物やら悪魔やら魔物やら、その諸々もろもろ多種多様たしゅたよう厄介やっかいなものばかり召喚してくれた。バケモノがウヨウヨ。

 大騒動おおそうどうになった。

 やむをず『魔女が見つかった』とニセ情報を流し、魔女探しをめてあきらめて、やっとニセ魔女と化け物の召喚がまった。

 そんなある日、本の舘に魔女の本と杖を返却へんきゃくしに来た者がいた。

「これ、返しに来たわ」

 そう言って彼女は本と杖を机に置いた。

「ある日突然、現れたのよ。捨てても捨てても、いつの間にか手元にある。燃えないしやぶけないし折れない。不気味ぶきみったらないわよ。ここの物なんでしょ。ちゃんと保管ほかんしといてよね」

「……魔女か」

「まさかこんな……」

「小娘、名前は何という?」

「アイリスよ。魔女? 私は本と杖を返しに来ただけよ。用はんだわ。そこをどいて」

「待つのだ。本と杖に選ばれし娘よ。運命からは逃げられぬ。魔女の責務せきむまっとうせよ」

「責務? 何よそれ?」

「本を読んだならわかっているだろう。モルモフの魔女は本の魔女。すなわち、女神召喚と舘の管理だ」

「はぁ? 冗談でしょ。魔女なんてまっぴらよ。んー、もう、何なのよ。あんたたち、そこどいて!」

「どかぬ!」

「ちょっと待ってよ!こんな田舎者いなかものが魔女だなんて、私は絶対ぜったいに認めない!」

「そうよ、そうよ。この女もニセ魔女に決まっているわ!」

「だから、私は魔女じゃないって言ってるでしょ!」

 口論こうろんにらみ合い。

 やれやれ。チャシュは少し離れたところからその騒ぎをながめていた。

 チャシュは疲れていた。凶暴化きょうぼうかしたネズミの群れや化け物の始末しまつを押しつけられて、チャシュはいい加減かげんうんざりしていた。

「頼むから、女神を召喚してくれ。でないと世界は滅びる」

「女神召喚をこばむのか? 世界を滅ぼすつもりか!」

「女神がこの世界に馴染なじんで落ち着いて、子供が生まれ育つようになったら、後は好きにしてかまわない」

 色々言われて説得せっとくされて、アイリスは渋々しぶしぶしかたなく、女神を召喚した。アイリスは魔女の弟子ではなかったが、後継者だった。





 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る