第29話

「今から百年前……」

 アズキとチャシュは魔女に呼ばれた。

「ツガイモと猫がりないから来てちょうだい」

 けれど一足ひとあしおそかった。

 アズキが宮殿に着いた時、ツガイモは残っていなかった。ツガイモを失った女神はすでに、発作を起こして死んでいた。

 チャシュが本のやかたに着いた時、猫は残っていなかった。二十四匹いた猫は、ネズミに食い殺されていた。

 モルモフの魔女キルケは、凶暴化きょうぼうかしたネズミの群れをチャシュにまかせ、ツガイモが集まるのを待って女神を召喚しょうかんした。

 ツガイモとは、女神のために特化とっかしたせいを持つ者で、女神一人に対して少なくとも四人、多い時には二十人以上必要だとされる。精は毎日毎晩、回数をかさねればうすくなり量も減る。てる。女神は複数のツガイモから精を受けることで、モルモフで生きるために必要な量を体内に取り込む。たった一人で女神の体に必要な量と濃度のうどたし、なおかつ精力絶倫せいりょくぜつりんなツガイモはレアだ。アズキはそのレアだった。

 アズキを含め六人のツガイモが集まったところで、魔女のキルケは女神を召喚した。この時、魔女のねらった弟子がキルケ殺害を、アズキをねたんだツガイモがアズキ殺害をくわだてた。結果、魔女の弟子とツガイモはその場で即死そくし、キルケは負傷、アズキは異世界に落ち、召喚した女神は死んでいた。

「アズキは生きている」

 キルケはチャシュにそう言った。

「あれはレアだ。貴重きちょうなツガイモだ。何がなんでも宮殿が呼び戻す。だからお前は舘でネズミをりながら待っていなさい」

「アズキは戻って来ないよ」

 チャシュはキルケにそう言った。

「アズキはツガイモという運命からのがれたがっていた。自分の役目がいやでたまらなかったんだ」

 その後の女神はみな短命たんめいだった。世界はどんどん荒れていった。

 女神のある者は殺され、ある者は狂って死んだ。世界中で病気やいくさわざわい災害さいがい頻発ひんぱつし、しかも子供が生まれない。死者だけが増えてゆく……。

 不満と苛立いらだちが魔女に向けられ、ある日、弟子のひとりがキルケを殺した。

「私こそがモルモフの魔女にふさわしい!」

 そう叫んでキルケをナイフでし殺し、魔女の杖をうばい取り、弟子は女神召喚をこころみた。結果、女神はず、弟子は無惨むざんな死体となった。彼女は魔女の弟子ではあったが、後継者こうけいしゃではなかった。モルモフの魔女だけが、女神を召喚できる。


 

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