第28話

「由香里が回復かいふくして心を開くまで、静かに休ませておくこと」

 そう言ったのはアイリスだった。由香里の体は順調じゅんちょうに回復し、体重も元に戻った。けれど心が戻らない。しびれを切らしたアイリスは前言ぜんげん撤回てっかいした。

「由香里の世界ではどんな服が流行はやっているの? どんな料理があるの? 私の心は興味ではち切れそうなのに、んーもうー、こうなったら私が話しかけて起こしてやるんだから」

 そしてアイリスはしゃべりはじめた。服と料理の話しを延々えんえんと。毎日毎日、ベッドに腰かけ由香里の無反応も何のその。ペラペラペラペラしゃべるしゃべる。途切とぎれることなくオチもなく、脱線だっせんしまくって要領ようりょうない。

 アズキは耳をせてベッドの中へ逃げ込んだ。女のおしゃべりは騒音そうおんだ。ところがチャシュはベッドの上で、スヤスヤと眠っている。

「すげーな、チャシュ。よくこの状況で眠れるな。アイリスのおしゃべりノイズが平気なのか?」

「僕にはアイリスのおしゃべりが、歌のように聞こえるよ。声もリズムも心地ここちいい」

 チャシュは半分眠りながらムニャムニャと答えた。

「マジかよ。スゲーな」

 アイリスのおしゃべりをやめさせて由香里を起こす方法は……アズキは耳をふさいで考えた。由香里が安心して休んでいるのなら、逆に、不安になれば、危険を感じれば起きるかもしれない。

「アイリス、話しはそれぐらいにして、チャシュ、俺がいない間に何があった?」

 寝そべっていたチャシュは、体を起こすと大きく伸びをした。そして前足をそろえて座ると、話はじめた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る