第27話

 由香里の枕元まくらもとで、オレンジ色のウサギがしょんぼりとうなだれていた。チャシュはふわりとベッドの上に飛び乗ると、アズキのとなりにゆったりと腰をおろした。

「由香里のどこにれたんだい?」

「さぁな。どこでもいいだろ。全部だよ」

「顔、体、声、しぐさ、死にかけたところを助けられたから、優しくされたから、ではないだろう。そんな理由で君は惚れない」

「知らねーよ。わかんねーけど気づいたら、心が由香里でいっぱいになってたんだよ」

 チャシュは由香里の目をのぞんだ。黒いガラス玉のような目に、猫の姿がうつる。

「由香里にはぼくの姿が見えているんだと思うよ。この会話も聞こえてるんじゃないかな」

「それはないだろ。見ろよ、由香里を。枕元でしゃべる猫とウサギに何の反応もしめさない。俺の人の姿を見ても抱かれても、人形のままだ」

「危険を感じないから反応しないんだ」

「は?」

 アズキは口を開けたままチャシュを見た。

「由香里は心を閉じることで外からの情報を遮断しゃだんして、心を休ませているんだと思うよ。君のそばで安心して休んでいるんだ」

「……。だけど、もしそうじゃなかったら? もし由香里の心が壊れていたら……」

 アズキがうめくように言った。

「そしたら俺は……」

え」

 チャシュがアズキの目をまっすぐに見て言った。

「狂っても由香里だろ。君が惚れた女だ」

 アズキは目をせた。

「もし由香里を……。それで俺の心が壊れたら……」

「その時は僕が君と向き合う。狂っても君だからね。君は僕の親友だよ」

 チャシュはアズキに体をこすりつけた。

「大丈夫だよ。由香里は強い。君が惚れた女だ。この程度で狂ったりしない。由香里を信じろ」

 チャシュが部屋を出て行った後も、アズキはしばらくじっと由香里を見つめていた。由香里の呼吸は規則正きそくただしく、体はリラックスしている。

 アズキは自分の体をなめてきれいにすると、ベッドにもぐり込んだ。由香里にぴったり体をくっつけて寝そべると、ぬくもりに包まれた。

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