第26話

 アズキは由香里の目をのぞき込んだ。

 けれど、黒いガラス玉のような目にウサギの姿がうつっただけで、由香里は何の反応はんのうしめさない。いつもなら、ほほんで頭をなでてくれるのに、ほおずりして抱きしめてくれるのに。それなのに、今の由香里はついてもめても足をみ鳴らしても、何をしても無反応。目を開けてベッドの上に横たわり、ただ息をしているだけだった。

 由香里は心をざしてしまった。

 ツガイモの精は、女神の体に対しては万能薬ばんのうやくではあるけれど、心の傷にはがない。心がこわれたら治せない。そして女神のほとんどが心を壊して死んでいる。

 心の傷は目に見えない。手でさわって確かめることもできない。由香里の心が回復に向かっているのか、それともすでに壊れているのか、アズキにはわからなかった。

 まるで人形のような由香里を抱くのはつらかった。けれどアズキのツガイモの精を注がなければ、由香里の体が壊れてしまう。俺の心が壊れそう。毎晩由香里を抱きながら、アズキは途方とほうれていた。


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