第24話

「なぁ、由香里。一人じゃ洗うの大変だろ。がりなんだからさぁ。俺が手伝ってやるからさぁ。俺も一緒に入れてくれよ」

 ドアの向こうからアズキの声がする。

「自分で洗う」

 そっけなく答えると、由香里は木造もくぞうの風呂場を見回みまわした。窓も照明もないのに明るい。シャワーどころか蛇口じゃぐちもない。あるのは風呂桶ふろおけ石鹸せっけん。石鹸は面白おもしろいほど泡立あわだった。

 体に泡をりながら、せたな、と由香里は思った。ウエストが細くなったのはいいけれど、胸がなくなったのはちょっとショック。ぺったんこ。これはへこむ。アズキはよくこんな体を抱いたな。

 体中、包帯だらけ。このほどけない包帯は、水も石鹸も大丈夫っぽかった。防水らしい。由香里は頭から爪先つまさきまで全身泡々ぜんしんあわあわにして、それを頭からお湯をかぶって洗い流した。

 さっぱりして湯船ゆぶねにつかる。ふわぁ〜、いい湯だ。足をばしてくつろいだ。木造はいいなぁ〜、木のぬくもりがある。

 ……女神の宮殿きゅうでん石造いしづくりりだった。

 窓も照明もドアもない、白くかがやく石の宮殿。白い壁をくした黒い文字……。包帯が守ってくれなければ、私はのみ込まれていた。壁を床を天井をい回る黒い毛虫の群れにのみ込まれ、同化どうかして文字になり、泣いてにじんで涙になって……。

 湯の中で包帯だらけの体がゆがむ。

 骨がくだけても血を吐いても死ねなかった……。女神は不老。過去の女神はどうやって死んだのだろう? いったい私にどうしろというのだろう? 私は何をしなければならないのだろう? 女神としてツガイモに抱かれていればいいのだろうか?

 外は石化せきか、中は血溜ちだまり血の女神、逃げ道はなさそうだ。宮殿から逃げてツガイモをこばんで今この状況じょうきょうだしなぁ……。あぁぁ、何だかこわれそう。体より心がヤバい今の私。

 由香里はブクブクと湯の中へ体をしすめた。このまま沈んで湯船ゆぶねの底で静かに横たわっていたいけど、それは無理だとあきらめて、風呂から上がって体をいてTシャツを頭からかぶった。ドライヤーがなかったので、髪にタオルを巻いた。ほっとけばそのうちかわくだろう。どうでもいいや。つかれた。

 眠りたい。夢のない眠りに落ちて、そのまま目が覚めなければいいのに……。あぁぁ、頭の中にびっしりとどろがつまっている感じがする。




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