第19話

「由香里! やっとお目覚めざめね。良かったー! んー、もう、なかなか意識が戻らないから心配してたのよ」

 アイリスは部屋に入ってくるなりいきおいよくしゃべりだした。

「ホントに危なかったんだから! もっと早く言ってくれたらすぐに処置しょちして軽症けいしょうですんだのよ。それなのに由香里ったら……。よくもまあ、あんなになるまで我慢がまんしたわね。おどろきを通りしてあきれて感心しちゃうわよ。どんだけ我慢強いのよ! 息のわりに血を吐いて、はいも肉も骨も……」

「ストップ、アイリス。由香里がおびえているよ」

 チャシュが尻尾しっぽでアイリスの口をふさいだ。

 由香里の目線はアイリスの肩の上、チャシュに向けられている。

「チャシュ、由香里が怯えているのはアイリスじゃない。おまえだ」

「え? ぼく?」

 チャシュは首をかしげて困り顔。

「しゃべる猫は怖い? 人の姿で話した方がいいかな?」

 由香里はふるふる首をった。

「猫のままで」

「んー? どうして? チャシュは人の姿でもイケメンよ」

 アイリスはチャシュを腕に抱くと由香里に見せた。由香里はベッドの中からじっとチャシュを見ておそおそる聞いた。

「チャシュもツガイモ?」

 チャシュの金色の目が丸くなる。

ちがうよ。僕はツガイモじゃない。ただの猫だよ」

 由香里は少し警戒けいかいいた。

「アズキがチャラ男になっただけでもう十分じゅうぶん、キャパオーバー。猫やウサギがしゃべるだけでもギリギリだから。頭がおかしくなる一歩手前いっぽてまえ状態じょうたいだから。チャシュは猫のままでいて」

「わかったよ」

 チャシュが優しくほほえんだ。

 「オッケー。それじゃあ包帯ほうたいを取りかえましょ。んー、心配ないわよ、由香里」

 アイリスが元気づけるように言った。

「もうせきも息苦しさもないでしょう。私たちの声も聞こえてる。傷痕きずあとも残らないから安心してね。由香里には睡眠すいみんと食事とアズキが必要なのよ。それとあい。ラブよ、ラブ。ラブはね、心を通わせ体を重ね、たましいれあうの……」

 うっとりとあいラブの世界にひたりかけたアイリスを、チャシュが引き戻す。

「アイリス、包帯を」

「あ、忘れるところだったわ。んー、由香里は起きなくていいわよ。そのまま寝ててね。それじゃあ……」

 かけ布団をめくったアイリスの顔からみが消えた。


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