第20話

包帯ほうたいが……、服は?」

 由香里の右手首に包帯はなく、なおりかけの傷が見えている。肩や手足に巻かれた包帯は、ほどけて千切ちぎれていた。

勝手かってにほどけたんじゃね? 由香里はかなりせたし、俺も気をつけたけどそれなりに動いたからさ。服は途中とちゅうげたのかも。どっかそのへんにあるはず」

 ベッドの下にもゆかの上にも何もなかった。

「ありえないわ。この包帯が勝手にほどけるなんて、ましてや千切れるなんて……。服も包帯も、私が魔法をり込んで作ったのよ」

 ベッドしかない部屋の中、服はすぐに見つかった。まくらの下からビリビリにやぶけた服と何枚もの赤い布切ぬのきれが出てきた。

「血だね」

 においをいでチャシュが顔をしかめた。

「赤い布切れはすべ血染ちぞめだよ。しかも一人や二人の血じゃない」

「もうひとつ」

 アズキがくわえた。

「服からも布切れからも、宮殿きゅうでんにおいがする」

「んー、それってつまり、どういうことなの?」

 アイリスが首をかしげ、アズキが首を振る。

「俺にもわかんねーよ。どーなってんだか、さっぱりだ」

「……由香里? 何か心当こころあたりがあるのかい?」

 青ざめた由香里の顔をチャシュがのぞき込む。

「……ゆめ」

 由香里がふるえ声で呟いた。

 チャシュが先をうながすようにうなずいた。

「夢で……宮殿の中に……いた」

 由香里は白い夢の話をした。白い部屋、けた体、オオカミとヘビと裸のツガイモ、女神の宮殿、黒い文字、涙から憎しみ血の池へ、おぼれてのみ込み血の女神。

「宮殿に入っちゃダメ。近づくのも危険。あそこには何かいる」

 そう言って由香里は体を震わせた。

「心配ないわ。この部屋の結界を強化するから。この新しい包帯も服も、前のより強いのよ。だから安心してね。私たちが由香里を守るわ」

 包帯を取りかえながらアイリスが明るく言った。新しい服はクリーム色のTシャツ。デザイン、サイズも前のと同じ。

「ありがとう」

 由香里にお礼を言われて、アイリスはうれしそうにニッコリした。

「んー、由香里はちゃんと眠るのよ。体力をつけないと、いざという時に戦うことも逃げることもできないんだから。んー、布切れと包帯は持ってって調べてみるわね。それじゃあまたねー。あとでねー」

 アイリスはヒラヒラと手を振って壁の向こうへ消えた。アイリスの肩の上、チャシュが手の代わりに尻尾を振った。

 アズキはベッドの中へもぐり込んだ。由香里にぴったりと体をくっつけて寝そべると、由香里がなでなでしてくれた。アズキはうっとり目を閉じた。

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