第17話

 白く白く真っ白に、どんなに白くってもつぶしても、黒い思いが消しきれない。青く黒い感情がしろ白紙はくしに戻らない。

 この部屋に残された心の声が感情が、積もり積もった寂しさがあふれれ出て、黒い文字がにじんでけて透明とうめいな涙となって流れ出す。

 天井からぽたぽたと涙の雨が降ってくる。

 涙は壁を流れ落ち、床にまって青く悲しい池になった。涙の池はふる細波さざなみ、怒りへと変化する。池の底から憎しみが、どす黒い感情がき上がり、異臭いしゅうを放つ。にごった池の中から魚がねた。

 いや、違う……魚じゃない。人の手だ!

 もがいている。おぼれている。何人もの人が……その中に見覚えのある顔が、狼男、ヘビ男、裸男はだかおとこ。でも見えたのは一瞬で、あっという間に池にのまれて消えた。

 壁も床も天井もツルッツル。部屋はつややかな白を取り戻した。

 真っ白に光輝ひかりかがやく部屋の中、目に見えないけむりのように血のにおいが立ちこめる……。人々をのみ込んだ池は、血溜ちだまりになりゼリー状になり盛り上がり肉になり……人の姿になってゆく……。血のしたたる赤いドレスを身にまとう、血の女神になってゆく……。

 由香里はみ上げる恐怖をのみ込み、震える足をった。逃げるな、動くな、声を出すな。この包帯の円の中から一歩も出るな。由香里は自分に言い聞かせた。

 突如とつじょ、足元の床が消滅しょうめつした⁉

 包帯に縁取ふちどられた穴の中、由香里は真っ逆さまに落下して……ビクン! 自分の体に衝突しょうとつした。その衝撃しょうげきで目が覚めた……。

 ベッドの上で、由香里はチャラ男に抱かれていた。


 

 

 

 

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